第一話 『魔王はいないが、立ち上がれ冒険者よ!冒険者ギルド滅亡の日!!』 その2/郷愁は、雷魔法と共に!


「お前は……シデンじゃないか!」


 そいつはいつもと同じように、異彩を放つ。周りの空気をムダにピリピリさせるんだよ。スレンダーで小柄なくせに、どこか迫力がありやがる。ツカツカと、足音までもどこか偉そうだ。


 いつもこんなカンジで態度が大きい。学生時代からの付き合いだから、もう十年以上になるな。紫髪のポニテに、鋭さの目立つ赤い瞳のハーフ・エルフ。王都が生んだ、一種の『災厄』である。


 雷魔法の第一人者にして、性格の悪さでも、なかなかに有名な人物。それがシデン・ボニャスキーだ。


 出会いは冒険者ギルド1年生のときだった。ガキのころのオレに、雷を浴びせてきた日のことは忘れられんよ。オレじゃなかったら、もしかしたら死んでいたところだな。13才で人が殺せる魔法を使えたという点では、稀有な天才なのは確かだが……おっと、あいさつしなくちゃね!


「久しぶりだな、陰険雷魔法使い女!」


「失礼な奴だ」


「これもリスペクト。ライバル・パーティーのメンバーだからな! 相応のあつかいをするもんだろ!」


 冒険者パーティー同士で、切磋琢磨していきたからね。ライバルには、甘い態度は取らないのがオレたちの流儀じゃある。まあ、冒険者ギルドがつぶれた今となっては、出世争いの相手としてよりも、同業者としての共感の方が強かったよ。


「だが、よくきてくれた。酒でも飲むか? シェルフィー、つけで頼む」


「ええぇ……もう、341ゴールドもつけがたまっていますよ」


「じゃあ、シデン。お前は自腹で」


「金がない」


「か、悲しい一言だな……っ」


 シデンはオレのテーブルに座った。細身の体についた小型のケツを、テーブルに乗せたんだ。こういうマナーのなさが、社会不適合者なんだよね。モンスターを狩るのが上手だけど、それ以外は……。


 まあ、顔はいい。紫色の髪を、ポニテでまとめて……白いうなじもいい。ああ、スレンダーな女ってのも、いいよな。そこそこあるマリとは、また違った良さがあって。細い脚もいいもんだよ。


「卑猥な目で私を見るなよ」


「レオさん、恥ずかしい態度はやめるっす」


「う、うるさい。お前が、そんな脚の見える角度で座るのが……そもそも、テーブルに座ってはいけません!」


「焼かないだけマシだろ」


「……マシだけど。なんだ、それは、意味わからんっ!」


 冒険者はならず者すぎる。常識が欠如した反社会的傾向の者も多かったよ。


「酒だ、小娘」


「お金ないんですよね……っ」


「現金はないが、金策はある」


「マジですか!」


「ギルドを通さない『闇クエスト』なら、オレもやるぞ! もう、ギルドがないから、闇しかねえけど! 一枚噛ませろ!」


「ぎゃあぎゃあ叫ぶな。とりあえず、ビールだ。そして、作戦会議をしよう」


「そういや、他の連中は?」


「私のパーティーは解散した」


「そ、そうか」


「ギルドがなくなった影響は、とてつもなく大きいっすね」


「だから、お前の力が要るんだ、レオンハルト・ブレイディ」


「ああ。やるぜ」


「では」


「とりあえず、乾杯だな。シェルフィー、酒持ってこい! オレにつけておけ!」


「はーい。返せないときは、鎧売りますからねー」


「……ダサいな。お前、鎧を借金のカタに取られているのか」


「う、うるさいわい」


「私は、杖を取られている」


「オレのこと、いじる資格はテメエにはないな」


 悲しいが、とりあえず。この冒険者たちの安宿、『木漏れ日亭』に冒険者たちがそろった。ふたりだけだが、ひとりよりいい。


「乾杯!」


「乾杯」


 酒は美味しい。にがいポーションより、最高にいい。シェルフィーもいいヤツだ。ポテトを焼いてくれた。サービスだって。食材を腐らせるのがもったいないだけだろうに。まあ、いいや。


「心意気を感じ取れてこそ、いい冒険者だもんなあ」


「古くさい考えだな」


「いいじゃん。そういうの、好きだろ?」


「……まあ、嫌いではない」


「ヘヘヘ。ハナシ、わかるじゃねえか。さすがは、同業者だな!」


 飲んだ。冒険者の交流ってのは、酒を交えてやるべきだぜ。シェルフィーの炒めポテトの美味いこと。いいヨメになりそうないい子だよ。「一杯だけ、おごっちゃいましょう」。なんだかんだと、こういうサービス精神いっぱいだから、『木漏れ日亭』は大好きだぜ。


 金があるときは、薪とか、食器とか、灯油とか。オレたち冒険者サイドも、よく寄付したもんだぜ。そうさせたくなる、人情味ってものがあるのだよ。


「『冒険者文化』って、みんなで作ってきたようなもんだしなぁ。天井の雨漏りとか修理したし。あの暖炉だって、オレたちで修理してさ……」


 酒がすすむ。まだ23才なのに。涙があふれちゃいそう。これって、ノスタルジーってヤツなのかな? 記憶がいっぱい。思い出だらけ。オレたちは、自分たちで冒険の日々を作り上げていったのだ。


 ああ。冒険者って、サイコーの暮らしだぜ。


「飲むっすよ」


「おう」


 看板娘らしく、いい子だ。いつもの三倍可愛く見えちゃうよ……ツケも、ちゃんと払わねえとな。


 そのためにも、仕事だ。「ぷはー」と、ビールくさい息を吐き出すと、シデンを見る。酒もポテトもうまそうに味わっているが、わかるぜ。うずうずしている。冒険者らしく、クエストに意識が向いているんだ。とうぜん、オレもさ。


「……んで。クエストの内容は? ドラゴンとかいるか? 久しぶりに殺し合いたい!」


「モンスターは、いない」


「ふむ。じゃあ、探索か。何を、探すんだ? どこのダンジョンだ? 食料いるなら、『木漏れ日亭』の倉庫を漁ろう」


「ちょっと!?」


「いや。かなり近いから食料の準備は不要だ」


「そうか。じゃあ、知的なクエスト……追跡、探索、謀略の調査」


「城があるだろ」


「ああ、王城ね。近いぞ、下町からも見えるし」


「襲撃する」


「…………ん?」


「王城を襲撃し、王に『わからせる』んだ。冒険者をないがしろにすれば、どうなるのかをな」



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