第一話 『魔王はいないが、立ち上がれ冒険者よ!冒険者ギルド滅亡の日!!』 その1/ギルド、完了





「はあ……世界一、悲しいよ。オレ、レベルまた上がったんだぜ? どうするの? こんな強さ、持てあますだけじゃん……っ」


「レオンハルトくん。あなたも社会復帰すればいいのよ。冒険者なんてやめて、道路工事をするの」


「やだ……ッ。あきらめたくない」


「はあ。いい大工には、なれると思うのよね。筋肉あるから」


「だよね。試してみる? ベッドで。マジでいい仕事するよ」


「セクハラね。僧侶職に……おっと、『お医者さま』には、そんな言い方しちゃダメなのよ」


 セクハラしたくなる金髪碧眼の美人。こいつの名前は、マリカーネ。マリと呼んでいる。僧侶職の冒険者だった、オレの二個下、21才の女。今は、『お医者さま』だ。回復魔法の力を使って、ケガ人の治療で荒稼ぎをしている。


 オレの、元・パーティーメンバーだった。今は、主治医だね。


「ドラゴンに噛まれた後遺症が、痛むんだ」


「私をかばってくれたこと、覚えている。135ゴールドになります」


「金ない」


「レオンハルトくん。社会は、お金で回っているのよ」


「知っている。思い知らされている。だから、オレに……クエストくださいっ。何だってしますっ。ドラゴンでもゴーレムでも、ヒドラでもいいんですっ。はあ、はあ。モンスターと殺し合いがしたいいいいッッッ!!!」


「……重症ね。心が楽になるタイプのポーションを、処方しておきます」


「そ、そんなポーション飲んでたら、オレが、オレじゃなくならないかなっ?」


「大丈夫。医学を、信じなさい。甘いシロップで割るといいわよ。こっちは200ゴールドね」


 マリは商売上手だ。


 そして、人生の歩み方も、とても上手。


 どうにか、オレの女にしたい。養ってもらうしか、ないんじゃないかね。道路工事するより、荒稼ぎしている女医の夫やっていた方がいいと思う。主夫やるよ。美味しい料理で、子供たちをタフに育てる。ああ、違う。ちゃんと学校に通わせて、エリートに仕立てよう。もうガイ・ジアスさんもいないしね。


 この縁を放したくない。マリは、美人で、金持ってるんだもの。


 だから。


 クエストのない大半の日は、マリのもとに通っている。酒代のかわりに、心を癒すかもしれないポーションを買いながらね。みついでるようなもんだ。「再診料とその他もろもろ込みで、380ゴールドね」。鋼の盾を売って、ポーションの金策にしたんです。悲しいけど、こうやっていかつい魔法戦士があいつの周りにいないと、ライバルに取られる。


「帰れ、帰れ! 病院に若い男がくるんじぇねよ! そんなに傷が痛むなら、このポーションをくれてやる! 消えろ! いいか、マリはオレの女だああ!!」


 マリ狙いの若い男の患者どもは、追い払っている。ポーションをくれてやったからいいだろ。カツアゲもしてもいないよ。「うるさいから、静かにしなさい、アホレオ!!」。マリに叱られちゃった。


 うん。壁に貼り紙があってね。バカでも読めるよ。「さ・わ・ぐ・な」。


 迷惑行為か。


 ああ、知っているけど。マリに捨てられたら、行き場ないし。今日もクエストがない。ああ。そうだ、クエスト。クエスト。冒険者たちも更生して社会復帰……じゃなかった。どんどんやめている。同業者が減れば、クエストを受注しやすくなっているはずだからね……!?


「は、はああああああああ!!?」


 23才の冒険者の男だって、叫ぶよ。


「ぼ、冒険者ギルドが、つぶれてるううううううう!!」


 ……『永らくご愛顧いただきました、王立冒険者ギルド。この度、国王陛下からの助成金が廃止されたため、一部機能を残して閉鎖することになりました! 冒険者のみなさま、今まで楽しい時間を共にできて光栄でした! 心からの感謝を スタッフ一同』。


「お、オレの青春が、お、終わってるうううううううう!!」


 泣いた。


 男泣きなのか、いや、違うか。哲学的にいえば、『存在の軽さ』だね。世の中から切り離されたことが、辛いんだ。必要とされていない。冒険者は、もういらない。オレ、まだまだ冒険者でいたいのに。冒険者ギルドが消えたら……どうにもならないじゃん。


 宿に戻る。


 どれだけとぼとぼ歩いても、ちゃんと目的地にはたどり着くものだ。冒険で学んだ。過酷な道も、一歩ずつ進んでいけば、ゴールはやってくる。


 冒険者にヤサシイ金額設定のボロ宿から、たくさんの死んだ瞳の冒険者たちが出てきやがるんだよ。みんな大荷物抱えていてね、キャンペーン/長期遠征に出かけるときみたい。でも、ちがった。魔族の呪術でつくられた『生きたしかばね』のような雰囲気で、ぞろぞろと……。


「レオさん、どうも、お疲れ様でした……自分、故郷に帰ります」


「田舎で、農家を継ぎますんで……いつか、足をお運びください。大きなキャベツを、食べていってくださいね」


「……はあ。本気で、就職活動しないと……」


「うう、ううう、ああ、あぐううううっ。かなしい、かなしいよお……うう、うおおお」


 みんな、去っていった。


 夕方、宿屋の看板娘エルフ、シェルフィーとオレだけがダイニングにいる。


「この食堂って、こんなに広かったかな……っ」


「レオさん。どうしよう、マジで……うち倒産するかもっすよ」


「観光客、増えてるらしいから、大丈夫じゃない?」


「王都へのおのぼりさんは、いい宿に泊まりがちっす。こんな、ド底辺安宿に泊まるのは、レオさんたちみたいな、行くあてもない哀れなクズ……あいたたたたたあっ! 耳、ひ、引っぱっちゃ、だ、だめええええっ!」


 希望が足りてなかった。オレはマリに夜這いでも仕掛けて、子供でも仕込み、その既成事実をもとに夫として生きていくしか……!?


「レオンハルト・ブレイディ、いるか?」


 ダイニングにひとりの女冒険者が乗り込んできた。



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