こちら王立冒険者【再就職】支援ギルド!!~無能冒険者さんいらっしゃいませ!中堅冒険者のオレが究極ダメ冒険者といっしょに社会復帰をサポートします!?~
よしふみ
プロローグ 魔王、消える
子供のころ。魔王がマジで攻めてきやがったんだ。
オレたちの住む、ルクレート王国にね。
屋根にのぼって見上げたもんだよ。空にかがやく、超特大の魔法陣を!
スゲー、光っていやがった。
金色のかがやきが、呪文のことばを空に描いている。
数学の授業でつかう、五芒星ってやつだ。
あれが王都の空いっぱいに広がっていて、『空が裂けた』。
たくさんのモンスターが地上に向かって降り注ぎやがったよ。みんな大パニックだった。王都の騎士団がいてくれたおかげで、その『宣戦布告』でオレたちが全滅することはなかったんだけど。
魔王の声を、聞いた。
『愚かな人類どもよ!! 我が名は、大魔王ガイ・ジアス!! これより地上のあらゆる国を蹂躙しつくし!! 貴様ら人類のすべての種族を統べる、至高の支配者にして、絶対の統治者である!!』
よくわからんが。
偉そうだったのは確かだよ。
ガキだったから、めちゃくちゃ心が震えた。「マジかよ。魔王って、すげー……っ」。屋根の上で、猫たちに混じって叫んだ。木刀を空の五芒星に向けながらね!
「オトナになったら、オレがお前のことを倒してやるからな!!」
ああ。
ガキらしい。
子供ってさ、自意識過剰なところって、あるじゃん?
あれが出ていた。もちろん、オレだけが恥ずかしい決意を叫んだわけじゃない。王都の多くの男子がそれをやったし、女子だってそうだよ。「いつか私が魔王を倒してやるわ!」。魔法の才能とかあったら、そう思うよね。エリート意識とかもあれば、魔王討伐後にどれだけ出世できるのかと考えちゃうに違いない。
たくさん。
たくさんの少年少女が、あのとき、大魔王ガイ・ジアスの五芒星をにらんでいた。
オレたちの世代は、そんな自意識過剰な状態になっていたんだよ……。
王さまは、賢かった。
そんなオレたちを、魔王対策に使うことにしたんだよね。
「聞け、愚民どもよ! 余は大魔王ガイ・ジアスを討伐するための戦力を、ここに募集する!! 『王立冒険者ギルド』を、四十六年ぶりに復活させることに決めたぞ!!」
じつは、四十三年ぶりだったが……王さまは、そんなちいさなトコロを気にしない。悪いね、オレ。冒険者マニアだから。細かいんだよ。
「やるぞ!!」
「やってやる!!」
「冒険者になって、大魔王を倒し……勇者になるんだああああッッッ!!!」
ああ。
それが、オレたちの世代の青春だった。
オレたちだって、みんながみんな特殊なご家庭に育っていたわけじゃない。軍人だとか、騎士の家系なんて珍しいだろ。うちは粉屋だった。小麦の実を『石うす』でひいて、みんながよく知っている小麦粉にする……だけの仕事だ。
そこそこ、稼いでいたんだよ。だって、パンもパスタも小麦粉ねえと作れないもん。町ではいちばんの粉屋だったから、裕福な方だったぜ。長男のオレじゃなくて、勉強ができる弟が継ぐ予定だけど……。
オレたちの世代は、けっきょくのところ。夢を見すぎていたというか。
だって、大魔王が出てきて、そこらじゅうにモンスターがあふれててさ、王国が冒険者活動をサポートするとか言えば、オレも私も『冒険者になる!!』って、みんながみんな言い出すに決まっているじゃないか。
あのときは、マジで必要だったんだよ。
本気で、世界とか王国が滅びそうだったんだからさ。
オレは、周りのガキたちと同じように、冒険者を目指して特訓をしていった。ギルドに所属して、戦闘技術を学んでいったよ。軍事訓練そのものだ。モンスターと、人間やエルフやドワーフが戦うんだぞ? ちゃんと、軍隊もどきになってなくちゃ勝てねえ。
殺されるわ。
じっさい、同期の連中、殺されちゃったヤツも多い。葬式になれちゃったから、葬儀のマナー講師もやれそうな気がする。『お悔みの言葉集』が、冒険者ギルドのメンバーのなかではベストセラー本だったのは悲しい事実だな。
オレたちの青春は、冒険者100%だったと言えるだろう。腕を磨き、大魔王ガイ・ジアスが派遣してくるモンスターの群れと戦い、連中が作り上げたダンジョンという名の軍事基地の攻略にあたる。連中の『宝』という名の軍事物資を略奪し、祝杯をあげる。ときどき、手痛い失敗もした。
「ひえええええ!!」
「あ、あとは頼むぞ……ぐふう」
「お、お前が、オレたちの盾になるんだよ!!」
うん。
甘酸っぱい青春だった。苦くもある。僧侶がモテたの、わかるだろ? 殺伐としていたところもある冒険の日々の中では、清楚かつやさしい治療スタッフは多くの男の心をつかんだ。魔法使いの女とかは、行き遅れちまった連中が多い。職業って、人生を決めるよね。
オレの職業『魔法戦士』については、どういう評価なのか?
器用貧乏と呼ばれがちだが、オレは、もともとタフだったし。明るい赤髪でイケメンなソフトマッチョだ。素早さもあったし、運動神経がいい。魔法まで使えるんだから、かなり有力なタレントだったよ。壁役が多いし、臨機応変に魔法でも物理でもがんばる! ぶっちゃけ視野も広いから、指揮官タイプね!
いいカンジの中堅冒険者です。レベル25。超一流どもは、レベル35からだ。オレは、年齢の割にはエリートっぽかった。順調な成長をしていたのさ。うん。あのまま、大魔王ガイ・ジアスがいてくれたらね。マジで、勇者になれたかも。
3年前。
オレたちの青春のターゲットである、大魔王ガイ・ジアスが消えた。
誰かが倒したっぽい。
そのおかげで、魔王軍のモンスターの勢いは減少した。魔王軍の幹部の魔族たちも、あまり見かけなくなったらしいから、魔界にでも帰ったんだろう。あいつらにだって、生活基盤ってあるだろ。邪悪だが、知的生命体だぞ?
謎ではある。
……「魔王はオレが倒した!」と主張する、自称・勇者どもはたくさん出たけれど。証拠を合わせもつヤツは、ひとりだっていなかった。自称・勇者パーティー同士で、決闘までする始末だよ。それで勝ったとしても、勇者認定されるもんかね……。
「冒険者パーティー同士で、『どのパーティーが大魔王を倒したっぽい』か投票するっていうのはどうだ?」
平和的かつ妙案だったが、世間ウケは良くなかったよ。美少女僧侶が三人もいるパーティーが投票で人気だからといって、ガイ・ジアスが倒せたという証拠にはならん。彼女たちはアイドルだが、戦闘能力は中の下だからな。
とにかく。
混乱はしばらく続いたわけだが。
世界は、かなり平和になった……いや、なっちまった。
オレを社会不適合者だとは、思わないでくれ。死活問題なんだよ。激減するモンスター討伐クエストに、王侯貴族や大商人たち『スポンサー』の撤退。「もう魔王いませんしね!」。そのとおり。だが、わかってくれ。魔王はいないが冒険者は山ほどいるんだぞ!?
なにが問題なのかって。
ようは、オレたち冒険者が『大量に余っちまっている』ところだね。無職の冒険者たちがさ……。
騎士団とか軍隊に就職できたヤツは、良かった。でも、定員というものがある。エリート街道に進むには、やはりコネも必要だし、学力的な問題もあったよ。
オレたち、あまり学校に行かなかったんだ。
恥ずかしながらね。
いついかなるときも、暴力を鍛えていた。
身の丈よりもデカい鉄のカタマリである大剣を振り回し、モンスターとの地獄の白兵戦にそなえている。全教科、体育。いいや、軍事訓練。「くたばれ、レオン!!」、冒険者を目指す同期の連中と、筋肉と武器をぶつけまくったわけだ。
残ったのは。
勉強できない荒くれ冒険者ばかり。
困ったよな。アホだと、就職できねえんだよ。騎士団にも、普通のおしごとにもだ。この戦闘能力で、小麦を粉にしていけってか? いらねえよ。体力があって困るもんじゃないが、ここまではいらない。オレは鉄製の宝箱を素手で壊せるが……小麦は、とってもやわらかいんだ。そもそも道具つかえばいいし。
大魔王ガイ・ジアスさんがいなくなってしまってから、三年が経った今。
ルクレート王国は、異常な数の冒険者たちを持てあましている。生産性がない我々は、社会貢献しにくいのだ。しかも、キレやすいし、モンスターを殺せるような怪物どもだよ。
酔っぱらって、ケンカしても、家とか破壊しかねない。
それは、ドラゴンを倒しちまう連中同士だからね。おまわりさんに、こんなのは相手できねえ。だから、みんな、放置する。『関わりたくない』と。そんな空気が世の中に広まっていくほど、オレたちの就職口がまた遠退いていく。
オレたちは、世界を救うために努力しまくったはずだが、ガイ・ジアスのクズがいきなりいなくなったおかげで……。
収入がなくなったんだ。
つまり、無職。貧乏だ。
わかってくれるか? 大問題だよな。
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