作るか……『法律』
そーなったからにはやるしかねえ。
まず法だ。ファンの中になんか……最初のライブからずっとついてきて私のMCのセリフを全部覚えててなんなら聖典として配ってるやつがいた。
お前はファンの鑑だよ……
「キミすごいね!最初からいた子じゃん。どれどれちょっと見せて?」
「ウス!光栄です!」
「うーわっ……一言一句そのままだよ……じゃあこれにとりあえず十個基本的な法を書き加えるからみんなに配ってくれる?」
「い、いいんですか!?俺がそんな大役を!?」
「もちろん!」
「あ、ありがとうございます……俺、やりとげます!」
泣いてるよ……こいつも『覚醒』したな。人間性ってやつに……
とりあえず『殺人罪』『盗罪』『偽証罪』は作っておいた。
もちろん魔族相手に奴隷はダメ。あと『契約』は絶対。
まあ今絶賛戦争中だから殺『人』に関しては『警告』をしてそれでも向こうから来たら正当防衛くらいにはしているけど。
当然軍事行動中は基本おとがめなし。
でも、いずれ人間側の陸戦協定を採用する予定があるよとも書いた。
詐欺罪とかもつけときたいけど、魔族は本能的に嘘が大好きなんだよな……
だますことに快感を覚えるから無理だ。
でも『契約』だけは覚えさせるし、裁判では嘘つかせない。
魔族にとって約束とは相手の隙をつくためだけの嘘だ。
初めから守る気がないからスゲエ適当を言ってるだけなんだ。
だから『契約』が成立しない。
でも私たちには魔法がある!やってみるさ。
「ミスラさあ……お前魔族にしては例外的に約束好きだよね」
「ええ。きちんと予定通りに約束が守られるとスッキリするもの」
「じゃあ国策として『契約書』をバラまいてさ。約束破ると罰としてお前が魔力を徴収していいって魔法できない?」
ミスラはしばし猫のように宙を見つめると、ポンと手を打った。
「あれっ?できるわねこれ……契約書を私が書いて本人の署名があれば『合意』として私の魔法が成立しちゃうわね……あれっ?これすごいアイデアじゃない?」
「だろ~?さ、書こうなめっちゃいっぱい」
「え~……めんどくさいわ」
私はミスラの耳元でささやく。
「魔力爆上がり」
「やってやろうじゃない!これは投資、これは投資……」
これで魔法の強制力で物理的に破れない。
なんか強制的に動きが止まるんだわ。
なんなら破ろうとした時点で罰として魔力徴収もあるからミスラも笑顔だ。
そして魔族にとって魔力とは権力。人間にとっての金に等しい。
魔力を抜かれるくらい『酷い目』にあってまで『約束』破るやつはいねえ。
割に合わねえ。魔族の感性だとそうなるはず。そうだったらいいな……
「とりま今すぐ『報酬』として私の魔力1割くらいやるわ」
「やっぱり、他人からの魔力って心地いいわね……うふふ、楽しみだわ……」
「お前が納得してくれてよかったよ」
よし、次の法律いくか……
姦淫罪は別に要らないんだよなあ……だって魔族は基本つがいを作らないから。
気が合ったらヤってそれきりだよ。原始乱婚制万歳。
子供も3歳まですくすく育って反抗期が来たらそのまま独り立ち。
これが魔族のフィジカルと学習力の良さで成立してるし。
貨幣制度や『盗み』を禁ずるのも国内だけなら本当は要らないんだよね……
だって飯も服も家も汎用魔法の『錬金』で誰でも作れるし。
まあ『窃盗』は罰を軽めに『脅迫』は重めにしとくか。
将来的には魔力が本当に貨幣になるんだろうなコレ……
もちろん権利として『表現の自由』ってやつとか『武装自衛の自由』『決闘権』『愚行権』は強めに保証してある。
私たちの方の義務は『国民の生存権の保証義務』『国防の義務』とかそんなんだ。
締め付けるばかりじゃね、無理だからね。
っていうか『罪というものを最初に見つけた女』になっちまったよ……
ロックじゃねえなあ。
『酒も音楽も喧嘩もなんでもやり放題。ただし盗みと殺しはほどほどに』
まとめるとこのくらいのゆるゆる法律だ。
魔族って魔法しか娯楽がないから殺し合いがしたいってクソ蛮族だし。
なので街にコロッセオも作ったし『ストリートファイト制度』も作ったよ。
街で声かけて決闘したいことを伝えて、相手が『合意』したらその場でやるとか。
その際に『名乗り』とか『手合わせ願う』のポーズとかいろいろ作法を考えるのは楽しかったね。
お辞儀をしろ。挨拶は実際大事だ。『決闘』には『名誉』が必要だからな……
これらの法律は私の本をライブで配るときに、いっしょに『法律合意書』を配って『合意』させた。
ライブ会場で「全員サインしろオラァ!できねえなら出ていけ!」つったらまあ書いたよ。
そしてミスラの『契約』は『合意』さえあれば物理的な拘束力を持つ。
破ろうとした時は動けなくなるうえに、罰としての魔力の『徴税』。
これでミスラに自動的に魔力が振り込まれる。
もりもり増えてますよ!さすが魔族だ!片っ端から違法行為をしようとしている!
「す、すごいわ!私の魔力がいまだかつてないほどに高まってるのよ!これならモテモテよ!みんな私の威光にひれ伏すわ!最高よお姉さま!」
「お、おう……よかったな……お前がいたら犯罪率0%国家作れるのマジやばいよ」
「そうよ!もっと私の魔法をほめたたえてもいいでしょ!?」
「えらいえらい。でも取り分は山分けでホントによかったの?」
ミスラは最大容量から余った分はたれがなしになってるけど、私は『魔力を増やす薬』を毎日マメに飲んで最大容量を増やし続けてる。
ミスラはこの薬がトラウマになったらしく飲んでない。
あの……未来永劫お前が私を魔力量で上回ることないけどいいのこれ?
「仮にも私が仕えてる王がみすぼらしかったらなんかイヤじゃない?」
「お前本当に魔族基準でもお人好しが過ぎるよ……」
「なんか褒められてるわ!」
「褒めてるよ」
ベッドでミスラの頭をぐりぐり撫でる。
とはいえ、こんな素人法律でいつまでもやれるわけがない。
頭いいのが必要だ……
「ってわけでまず大賢者イシュトアン様に会おっか」
そこにファンの鑑ことファナトがドアの向こうから声をかけてきた。
「イ、イブキさん!大変です!」
「おめー見てわかんねえかなあ!おくつろぎ中だよ!」
女二人が裸で横になってる部屋のドアを平然と開けるからな魔族は。
「ッス!」
「急ぎの話?」
「大至急です!」
ファナトはぺこぺこ謝ってるけど、これ私を怒らせたのが申し訳ないのであって、やったこと自体に罪悪感はねえんだろうな……そういう種族だからね。仕方ないね。
「まあいいや。なに?」
「大賢者イシュトアン様が酒飲みに来てます!イブキさんを出せと!」
向こうから来やがったよ……
タイムリーに過ぎるだろ。
あれか、賢者だから機を読むのがうまいとかそういうのなの?
「ウッソだろマジで?」
「マジです。どうしますか」
「行くよ、行かなきゃしょうがねえじゃん」
「あざっす!」
私は起き上がると軽くほこりを払うような動作でさっと服を魔力から作る。
キメていかなきゃな……
今日は黒のワンピースにママのおさがりの「スカジャン」だ。
背中には三つ首金色のドラゴン模様。
勝負服といえばこれだろ。
まあ、酒飲みに来てるとこスタートだから荒事にならない前提でいきたいけど。
「ミスラはどうすんの?」
「き、緊張してとてもお会いできないけど、会わないわけにもいかないわよね」
ミスラはまた小鹿みたいに震えていたので、置いていく。
この先にはとてもついていけそうにねえ。
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