賢者っていうか大魔導士みたいな爺さん
なんか……イシュトアン様の周りだけすげえ雅な空間になってる……
郊外の川べりなんだけど、なんということでしょう。
薄汚えドブ川が小鳥と小魚の遊ぶ清流に。
貧相な杉林が桜並木みてえなようわからん魔樹に。
わあ……桜吹雪が風流ですねえ……
劇的すぎる……
「うむ、来たか。おぬしがイブキとやらか?」
「ここをスターステイツにしたやつなら私です」
威厳がパねえ。
まずタッパが
見た目は竜人っぽいけど微妙に山羊っぽいんだよな。ヒゲとか。
顔なんか完全に山羊角のドラゴンだよ。
これは古い魔族の特徴で、古ければ古いほど異形といっていい。
つまり、ベテランの証だ。
「ならばよし。まずはそうだな……礼を言っておこう。ワシが酒を美味いと思える日が来るとはな。感謝しよう」
「あ、どうも。あざっす……」
人ができている……!
なんかわかるんだよね。魔族同士だと。擬態じゃなくマジの感情ってのが。
この人本気で目下の相手にお礼言える人だ……
なんか……すごくまとも過ぎて逆に調子狂うわ。
「それであの……何しにきたんすか。マジで酒飲みに来ただけすか」
くそっ、思わず敬語になっちまうよ。なんかこう、おじいちゃん感というか……
魔力の大きさもあるんだけど、なんか本当に威厳ありすぎるんだよ……
「ふむ、そうさのう。それもあるが……おぬしがどういう者なのかを見定めに来た」
「それ、不合格だったら殺しに来るアレでしょ」
「さて、どうかのう……おぬし、『つまらなかった』のだろう?『人間より愚かな魔族』が許せなかったのだろう?……違うかのう?」
なんでわかるんだよ。笑顔になっちゃうね。
この人もそうだったからか?
ごまかしは……効きそうにねえな。いいやもう、出たとこ勝負だよ。
腹の探り合いしても仕方ねえし。
「そうすね。だいたいそんな感じっすわ。約束の概念すらわかんねえ人間以下のアホが自分の種族とか我慢ならないんで。あと、人類を食う必要全くないのに殺人衝動あるのもホント嫌です。あんなバケモン種族を敵に回したくないんですよね」
うーわっ、自分でも引くほど暴言が出てくるよ。
でも一番の動機はアレかな……
「……嫌なんすよ、他人の始めた
クックッとイシュトアン様は笑っている。嫌な感じは……ないな。
でもまあ、魔族って殺るってときはすべてが嘘でなんなら爆笑しながら殺しに来れるからなあ。
そもそも魔族はだいたい
「なるほど、そうか……くっくっ……なるほどだいたいわかった。その意気やよし。ワシは……おぬしに賭けよう」
「え?合格?これで?なんで?」
素が出ちゃったよ。簡単すぎない?
まあ魔族って表情読むのが得意で、魔力の質も見ればだいたい相手の性格や練度くらいはお互い解るんだけど。
ちなみにイシュトアン様の実力はハッキリ言ってバケモンだわ。
魔力の量自体はそこまででもないんだけど、洗練されすぎてる……
振る舞いからして気品があるし、なんなら動作一つ一つが達人のオーラがある。
ユラァ……ってかんじ。
「酒を一つ、ついではくれぬか?」
「あ、ハイ……」
お酌することになっちまったよ。
でも不思議とイヤじゃないっていうか、魔族的本能で目上にゴマするのはむしろ心地いいんだよね。
魔力量封建社会だから。
「どうぞ、
「うむ……うまい」
ゆったり飲んで、しみじみ言うじゃん……?
「ワシにはな、ドワーフの友がいた。といってもワシが村を襲い、そやつが防ぐというだけだがな」
「マジすか。それ魔族の限界超えてますよ」
魔族は人類とは仲良くなれない。
なれないっつーか、仲良くなってもいずれ食いたい殺してみたいが強くなるから駄目なんだわ。
私とイシュトアン様は『
「ワシも、ワシ以外それができたものは知らん。それはよい。まあ……酒が好きな男であったよ。ワシらは戦い終わればときおり酒を交わした。ワシはうまいとは思わなかったが……楽しかった。それだけでうまい気がして……いつも美味いと嘘を言っておった。それはあやつもわかっておったろうがな……」
めちゃくちゃ重い感情のあるエピソードお出ししてくるじゃん……?
そもそもそんな重さの感情を抱ける時点でこの人も『
魔族は感情マジ薄いっていうか自分の感情に興味ねえからな。
ああ、だからか。
この人も『異端』なんだ。
「奴の最後の言葉は『いつも安酒ですまなかった』であったよ。値段の問題ではないのになぁ……」
イシュトアン様が
「いつか、酒を飲んでうまいと思ってみたかったのだよ……どうせ、真似事しかできぬというのにな」
「まあ……そうすね。私たちのやってることは人の真似事ですね」
「だが、今日真似が本当になった。ワシがいくらやってもできなんだ事をおぬしはやった。それに……おぬしも、もうわかろう?」
「『同じ側』っすねイシュトアン様も」
「カカカッ。そうだ、魔族ではそれがわからん。だが、おぬしは解った。ゆえに手を組むのよ」
イシュトアン様は魔法で団子を出すと、「魔族の味覚には美味しく感じる粉」を振りかけて口に放り込んだ。
いや、あれ私のオリジナルとは違うわ。
改良されてる……明らかに……私のが
「やっぱ半端ないすね……イシュトアン様は……」
「『あらゆる薬を作る魔法』といったところか?いい魔法だ。汎用魔法『錬金』の延長と特化、シンプルであるがゆえに拡張性の高い術式……ワシの『魔弾』に近しいものを感じる」
なんか……来るときミスラが言ってたけど。
魔法といえば最初に覚えるのは『魔力をボールにして撃つやつ』でさ。
その『魔弾』を最初に思いついて改良しつくした人がこの人なんだってね。
汎用魔法の中に入ってるから私も覚えてる。
これメチャクチャ術式が美しいんだわ。
洗練されてこれ以上無駄をそぎ落とせないし、何をつけ足しても蛇足って感じの。
魔法使いとして私が『尊敬』に値するのこの人くらいだよ。
「そういわれるとうれしいっすね……まあ、感情面はわかりました。でも、損得っていうか勝ち筋あるって思われてたのは意外ですね」
「四天王を三人まで落とし、宰相を殺したのだぞ?……物事には流れというものがある。どのみち冷遇されておったしの。ここでワシも勝ち馬に乗ろうというだけよ」
冷遇されてたとかマジ?この人塩漬けにしとくの戦争勝つ気ねえだろ。
これでこの人スパイだったらマジ嫌だな……まあ信用するしかねえんだけど。
今ガチバトルしから分が悪いし、勝ってもめっちゃ死人出るだろうし。
「正直助かります……法律つくったんすけど、素人仕事だからマジわかんないんすよ」
「ふむ……後で見よう。だがまずは『乾杯』といこう。人間はこういったとき盃を交わすのだろう?」
「らしいすね」
「では、ワシはおぬしに下る。『仲間に』」
「マジすか。じゃあよろしくお願いします『乾杯』!」
なんか……なんとかペラ回しだけで乗り切ったぞ……!
口先三寸でなんとかする生態で今だけはよかったと思う。
いや、そんなことこの桜の風流さの前では無粋ってやつだな……
「酒がうまいすね……」
「ああ、うまい酒だ」
私たちは、いつまでも散りゆく魔桜を見上げていた。
酒がうめえ。
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