私が大統領になったワケ

「はーいみんなお疲れー。で、お疲れのところで悪いんだけど。ちょっと休憩したらケツまくって逃げるよー。大幹部殺っちゃったから魔王軍と全面対決になるもんね」

「今更ながら震えてきたじゃない……早く逃げましょうよお姉様!」


 ミスラは手足が子鹿のように震えている。良い傾向だ。情緒が育ってる。


「なんだけどさー。ちょっと魔王軍に置き土産しておきたくて……」


 ユノは私の方を見る。確信に満ちた顔だ。いいぞ、お前の信じる私を信じろ。


「策があるんですよね、イブキ様」

「ライブしよっか。次の街で」

「ええ……?」


 ミスラはいつもの財布がない顔をしていた。


                  ★


 そういうわけで、ダッシュで向かった次の街。

 朝方ついて昼まで寝て、夕方から私達は良い感じの通行量の多い広場に陣取った。

 軽く2、3曲流すとファン達が人垣になって集まってくる。

 良い感じだ。


「はーいみんなノッてるー? 『ストリングフリークス』のゲリラライブだよ! でも残念なお知らせがあるんだ。私達は活動を一時中止する。なぜなら私は昨日魔宰相ナザルを殺った!」


 どよめきがわき起こる。ウソだろう、という声も聞こえた。


「マジだよ! 音楽とか酒を魔王が嫌がったからさあー。刺客送られちゃった♡このままだと自由に音楽ができなくなるんじゃない? 私は逃げるから知らないけど。好きに歌も歌えない国なんかいたくないからね!」


 どよめきが大きくなる。困惑と怒りが見て取れる。

 良い流れだ。このまま私の目指す方向に……

 ゲッ!? 

 あれ四天王『最強』のアダマス!?

 その横は『幻術イリュージョン』のユージンじゃない……? 

 仕方ねえ巻きでいくか! 


「だから、今夜は私がイリュージョン見せてやんよユージン!」


 私はユージンを指さして言ってやった。自分の魔法を引き合いに出されたら一瞬固まるだろ! 今だ! 


「全員気合い入れろォ! 打ち合わせにないけど九割だ!」


 初っぱなから全開で行った。ギリギリ死人が出ない限界のやつ。

 それは希望の歌。

 新しい時代が、明るい未来が訪れるだろうと高らかに歌い上げる歌。

 何の根拠もないけど聞いてるだけでなんかすごい時代が訪れるだろうと確信してしまうような歌。

 ユージンの手が止まった。たたみかけろ! 


「今夜の奇跡のお題はァ! 魔族が人の感情を理解する奇跡だ! 目に焼き付けやがれ! まずはこれが『楽しい』だ! 『紺碧ブルー』!」


 次はアダマスを指さす。

 こいつは常々人間の感情が知りたいと言ってることで有名なやつだ。 

 お前の知りたかった答えとやらを教えてやらあ! 度肝をぬきやがれ!

 

 それは静かで淡々としていながら温かい歌。

 ひたむきに好きな事を追求する楽しさと苦しさを歌った歌。

 魔族なら誰でも知ってる自分の魔法を研鑽する楽しさの歌。

 冷たい理性の中にわずかに灯る暖かい炎の歌。


「これが怒りだ! 『赤の断片レッド!』」


 それは名誉ある戦いを穢された魔法使いの歌。

 卑劣な人間にだまし討ちにされる魔族達の怨嗟の声。

 魔法使いならば名誉ある戦いをしろと怒る激しい歌。


「そしてこれが! これが情だァー! 『黄金体験ゴールド!』」


 それは友情の歌。

 アダマスは死地に行く友のために剣を送った逸話がある。

 それは優しさだったのだろう。


 朝焼けの中に吹く風のような。

 どこまでも爽やかで輝ける曲だ。

 炎の中にさえ冷たい場所があるように、輝けるもの全てが黄金ではないと。

 輝けるものはお前の心にもあるのだと。


「どうだお前ら-! ちっとは人間の言う心が解ったかクソボケ共が-ッ!」


 なんかほとんどの奴らが泣いてた。

 アダマスも呆然としながら頬に涙を流し、それを今気づいたように手で触れた。


「お前に聞いてんだよアダマスッ! お前の知りたかった答えは掴めたのかって聞いてんだァー!」

「……ああ、何かが、掴めたような気がするんだ」

「良かったなッ! そしてどうだこれが奇跡イリュージョンだユージン!!」

「……そのようですね。アダマス、あなたは魔王軍を抜ける気でしょう?」

「ああ、殺すか?」

「いえ、魔王様に辞表を出す伝書鳩に私の分もつけておいてください。修行のやり直しです」

「……そうだな」


 私達はハアハアと息をついた後、水を一口飲んで続けた。


「いいかッお前ら! 私はここを去るけど……次はお前らだ! 心ってモンをちったあ自覚したお前らが明日から楽器なり絵筆なり手にとって表現すんだよ! 他の奴らを感動させろ! 私にできたんだ! お前らだってできる!」


 どよめきが明るいものになっていく。中には歓声を上げるものすらいた。


「そしたら、その歌の中に私はいるッ! 私が死んでも音楽は死なないッ! これがロックだ!」


 自分の心臓を親指で指さし、高らかに吠える。

 これで種はまいた。それを受け取ろうが捨てようがこいつら次第だ。


「いつかまた自由に歌を歌える国になったら帰ってきてやるッ!」


 言うだけ言ってやった後はどうとでもなれ。知ったことじゃねえ!

 殺すなら殺せ! 

 そこに四天王の二人が前に出て跪いた。


「なら、俺たちが自由の国を作ろう」

「ああ、そうだな。ここに四天王の三人がいる。なんなら上級魔族で近くに大賢者イシュトアン様と無貌のセレナも。これならきっと説得できるはずだ。やろう」


 オイ流れ変わったな。

 ファン共も同調してきやがった。


「なんてこった……ヤマダ様が四天王を乗っ取っちまったー!」

「あれ……?これやれるんじゃないか?」

「やれるな」

「やろう!ヤマダ様!俺たちがヤマダ様の国を作ります!」

「だから置いていかないでください!」


 おいおいおい……そう言われたら後には引けねえなあ!

 ここで引いたら女がすたる!ママならそう言うだろ!それがロックだ!

 私はすうっと息を吸って今度は拳を突き上げる。


「お前らの気持ちはわかった……なら!私の本当の名前を聞け!私は山田イブキ!!今日からここはスターステイツとする!伝説のライブハウスの名だ!ここがあたしたちのライブハウスだ!自由の国だ!」


 割れるような大歓声が空を震わせた。

 本当は『スターステイツ』はママの所属してたライブハウスだ。

 ママ、見てる?ここで私は夢をかなえるよ。

 あの世まで届くくらい、歌いきるからさ。そっちから見ててね。


「イブキ様!」

「イブキ様!」

「万歳!万歳!」

「やってやらあ!魔王国をぶっつぶせ!」

「イブキ様の導きだー!」


 歓声と狂乱は朝まで続いた。

 やっべー、内戦起こしちまったよ。まあまあの無茶だな。


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