人類最高峰のカス共による薄汚え人の心の光

 しばらくしてやっぱり人食いの魔族として街を追われて旅に出た。

 背中には黒地に炎模様のギター、白のワンピース、麦わら帽子。

 真っ赤な髪はママが結ってくれたツインテールのまま。

 顔立ちは姉さんがいうには『ギザ歯糸目だねー』だそうだ。

 宿場街から宿場街へ。バレる前にちょっと食べて逃げるを繰り返していた。


 そんなある日、やっぱり誰も居ない荒野。廃墟の中でその女と出会った。

 後で聞いたんだけど、5歳以下の幼児を一万人ほど性的に食った破門宣告済みのクソヤバエッチシスターだ。


 「あら、あなたは……魔族ですね?愛を知らず歓びを知らず情を知らず、ただ人を殺す……なんと哀れなことでしょう。見ていられません。ですが、あなたには酒と歌がありますね?ならば、酔いしれることですよ」


 魔族バレしたのでとびかかって殺そうとしたらなんかピンクの煙になって後ろから抱きかかえられていた。


「な、なに、これ……」


 ちなみに自分の体を変化させるのは人間ではかなりの上澄みの魔法使いしかできない。

 格が、違う。そう理解して背中に冷汗が走った。

 魔力量の桁からしてもう人間のソレじゃない。

 魔族は獣だ。ゆえにシンプルなパワーにはひれ伏す。


「ああ、どうかおびえないでくださいませ。あなたは楽師。ならば痴れた音色を聞かせてください。我が神もお喜びになる事でしょう」


 煙に触った一瞬でかなりの情報を抜かれている。これ無理だ。勝てない。


「さあ、歌って?」

「う、うーん……しょうがないなあ~」


 できるだけ穏便に済ませるテイで、あえて砕けた感じで接する。

 私は「薬を出す魔法」で鬼殺しを一瓶出すと一気飲みしてギターを弾き始めた。

 どの道相手はきっと圧倒的に私より強いのだ。従わなければどうなるかわからない。


「どう?」

「いい曲ですね……あなたの情熱を感じました。ええ、すばらしいこと」


 なでなでと頭を撫でまわされる。圧倒的捕食者に撫でられているのになぜか「とても甘く、落ち着いた」それがおそろしい。


「ですが、それでも足りないものがあります……それは愛。私が愛を教えてさしあげましょう。これも功徳です」


 ピンクの煙が濃くなって私はとろんと甘くとろけるような心地よさに包まれる。

 ヤバいと理性がわかっているのに逆らえない。逃げる気にならない。


「さあ、暗黒性魔術の深奥を教えて差し上げましょう……人類の1万年の性と業の積み重ねを味わってくださいね♡」

「にゃにこりぇ、しゅごい……きらきら……ぜんぶきらきら……」

「そう、これが人間の感じる『幸福』ですよ」

「これがしあわしぇ……しゅごいい……」


 その夜、私は一晩で全部経験した。『全部』。

 そして、愛を、知った。知ってしまった……

 人類の研鑽は魔族に愛と快楽を教えるのに成功したんだ。

 マジでどうなってるんだよ……どうかしてるよ。


 多分脳のリミッターというか頭のネジが5,6本ぶっ壊れたと思う。

 お姉様は起きたときはメモ一つ残して消えていた。


『追ってきてくださいませ♡』だって。


 そしてお姉様は、イカレた教義のイカレた新興宗教を立ち上げて、なんか勇者的なやつに討たれたらしい。

 追いついた時にはなんか全て終わってた。

 あたしは三日三晩泣いた。泣けてしまった。魔族なのにマジ泣きできてしまったのだ。


                   ●


 この頃から私は酒場の男女のような言葉使いになっていた。

 どういうわけかそういうやつらとばかり知り合いになるのだ。

 まあ楽師と身分を偽って街に入って酒場に居る時点でそうなるのは明白なんだけど。

 人間社会では一般的にそう言う奴らをカスと言うらしい。


 ……まあ、カスだったなあいつら……

 それからも壮絶なカス共と何人も出会った。裏通りでシケモク拾ってるタイプのやつはまあマシな部類で。


 『おもしれーおもちゃだから』って理由でマフィア5つを潰し合わさせる天才詐欺師とか。

 定期的に街一個まるごと『実験』するマッド博士とか。

 『全人類を幸福にしたい!』といって無限生成する麻薬の煙を季節風に乗せようとしてる黒魔術師とか。

 

 全員イカれた生き方をしてイカレた死に方をした。

 遺憾ながら何人かのカス共はたぶんまだ生きてる。

 カス共との出会いを経て私はこう思うに至った。


 やっぱさあ、世界ってクソじゃない? 醒めて生きるに値しないやつじゃん。

 ずっと酔ってるほうが嫌な事忘れられて良いよ。

 どうせ魔族に寿命も未来もあったもんじゃないんだしさ!


 でも魔族の脳みそって不便すぎる。

 快楽に対する受容器官が少ないのか、『りみったー』がかかってるのか……

 どっちにしろこの脳みそじゃぜんぜん楽しくない!

 私はもっと楽しいを知りたい! 


 「というわけでできましたー『不可逆に魔族の脳にかかってる快楽リミッターを破壊する薬ー』!」


 すっごかった……めちゃめちゃぶっ飛びなやつだった……

 それから私はずっと酔ってる。きっとこれでいいんだ。楽しいし笑えるし泣ける。


 気がつけば私もまた人でも魔族でも失格なイカレ女になってしまった。

 いや……はっきり言おう。あたしもまた、カスになってしまったのだと! 


 そりゃそうだよ! 掃きだめみたいな所でばっか楽師やってたらそりゃ模倣パターンがカスばかりになるよ! 

 人類でも最高峰のイカレ野郎ばかりとつきあってぶっ飛びな薬やりまくったらそりゃあ魔族でも頭イカレるよ! 


 でも、それはそれで悪くないと思う自分も居るんだ……

 ママ、これがロックってことだろ?たぶん、きっと。おそらくそう。


「そんな感じだったんだけどさー。ねえどう思う?」

「よくわからないじゃない……」


 魔族の女大幹部は私に無理矢理飲まされた鬼殺しを吐いていた。


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