第9章 「A級昇格への最後の戦い」

 真夏の夜、ふとした風がカーテンを揺らす。加賀美玲奈(かがみ れな)は仕事を終えて帰宅し、夕食をとったあと、いつものようにパソコンの前に座った。

 ここ最近、現実世界ではさまざまなごたごたがあり、疲れが抜けきらない日々が続いている。だが、オンラインゲーム「ユニゾン・オブ・ファンタジア」の世界では、今こそ最高潮に盛り上がる大型アップデートが実装されようとしていた。


 **「学園イベント最終章:クイーン・オーバーロード襲来」**


 そう銘打たれた特設サイトを開くと、ド派手なイラストが飛び込んでくる。以前からB級映画さながらのストーリーで人気を博していた学園イベントが、ついに最終決戦を迎えるのだ。公式の事前情報によれば、王子(ソウ・クレイサー)や学園プレイヤーが結集し、絶対的な力を得た“クイーン・オーバーロード”を撃破する――それが最終目標らしい。そして、クリア時には特別ランクアップや報酬が待っているとも噂されていた。


 (あのクイーンが帰ってきたってことだね。たしか前回、一度追い払ったけど“退却した”だけだったし……)


 思い出すのは、あの学園ステージの中ボス“クイーン”とのド派手な戦闘だ。ソウ(王子)とレナ(玲奈)の共闘で一度は勝利を収めたが、どうやら完全撃破には至っていなかった。今回はさらに強化された“クイーン・オーバーロード”として再登場し、学園を再び混乱に陥れるのだという。


 ログイン画面を眺めながら、玲奈は深呼吸をして頭の中を切り替える。現実では幼なじみ・向坂颯太(さきさか そうた)との関係が大きく変わりつつあるし、同僚・杉野翔平(すぎの しょうへい)への対応も先延ばしにはできない。だけど、今だけはゲームに集中して、思いきりバトルを楽しみたい――そんな気持ちが湧き上がる。


 「よし……行こう」


 パスワードを入力すると、画面が切り替わり、キャラクター選択画面が表示される。そこには地味めの制服を着た女の子アバター、**「レナ・クライン」**がいる。さっそく「学園エリア」へ移動し、アップデート後の様子を確かめようとすると、画面上部に目立つバナーが出ている。


 **「緊急クエスト:クイーン・オーバーロード侵攻 A級ランク突破のチャンス!」**


 やはり噂は本当だったようで、今回のイベントクリアには「A級ランク」への昇格がセットになっているらしい。普段のランキングシステムとは別枠で、学園イベントを完遂したチームには特別称号“A級”が与えられる――これは多くのプレイヤーが狙っている目標でもある。


 (王子――いや、颯太も言ってたっけ。今度こそA級を目指そうって……)


 実は玲奈は既にソウの“中の人”が幼なじみの颯太であると知っている。つい最近、ほんの偶然から正体がバレてしまい、お互い大混乱に陥った。しかし、B級ノリで盛り上がってきた二人が、実は現実でも深い縁で結ばれていたことを知り、何ともいえない嬉しさと気恥ずかしさが入り混じっている。


 (きっと、今夜は王子も来るよね……私がログインするの、分かってるはずだから)


 胸を高鳴らせながら学園ホールへ飛ぶと、既に多くのプレイヤーが集結し、チャット欄が活気に溢れている。「クイーン・オーバーロードがもうすぐ現れる」「王子はどこだ?」「A級ランク目指すぜ!」など、みんな興奮気味だ。


 あちこちでパーティ募集の看板が立っており、合唱祭・演劇ステージで活躍した面々が再集合しているのだろう。と、そのとき人だかりの中心から金髪アバターの姿が――そう、“ソウ・クレイサー”がまばゆいエフェクトを纏いながら現れた。チャット欄に一斉に「王子キター」「B級すぎるww」「待ってたぜ」と書き込みが流れる。


 ソウが堂々と腕を組み、いつものようなB級調で高らかに宣言する。

 「よく聞け、学園の民たちよ! あのクイーンが最終形態となって蘇ったらしいが、オレがいる限り、学園は渡さん! B級だろうがC級だろうが、全力でぶっ飛ばしてやる!」


 相変わらずの“臭い”台詞だが、最近の学園イベではすっかり定番の光景となっている。周囲からは「王子、無理しすぎww」「いやでも期待してる」と冷やかし混じりの声援が飛ぶ。玲奈も思わず吹き出しそうになるが、画面の中では表情を消しながら彼に近づく。


 すると、ソウがすかさず個人チャットを飛ばしてきた。

 『レナ、来たな。覚悟はいいか? 今夜こそA級ランクを狙うぞ』


 (やっぱり、ちゃんと待っててくれてたんだ……)


 玲奈も控えめに微笑みながら、チャットで答える。

 『うん、私も本気で行くよ。王子、というか颯太……頑張ろうね』


 その言葉にソウは一瞬だけ「……(照)」のようなリアクションをチャットに出し、すぐさま「よし、パーティを組むぞ!」と周囲に声を張り上げる。ゲーム内では相変わらずのB級キャラを貫いているが、中の人が幼なじみだと知ってしまうと、どこか愛おしく思えてしまうから不思議だ。


---


## ■ 最終ボス“クイーン・オーバーロード”出現


 システムメッセージが学園エリア全体に流れる。

 **「緊急アナウンス:クイーン・オーバーロードが学園の深部に降臨。討伐のための特別マップが解放されました!」**


 それを合図に、プレイヤーたちは一斉に学園の奥へ向かう。今回は“クイーン・オーバーロード”専用の特設ステージがあり、そこで最終決戦が繰り広げられるという。個人でも挑めるが、難易度が非常に高いため、大人数でのレイド推奨となっていた。


 ソウ(王子)とレナ(玲奈)は、過去のイベントを通じて顔見知りになったプレイヤーたちを中心に、大規模パーティを結成する。「学園騎士団」や「演劇部」の仲間たちが次々と集まり、気付けば20人以上の大所帯になった。周囲の野良プレイヤーも含めると、さらに大勢が同じ目的地へ向かっている。


 専用マップへ移動すると、そこは学園の地下深くに広がる闇の空間だった。闇色の魔法陣が円を描き、その中央に**クイーン・オーバーロード**が鎮座している。以前の“クイーン”よりも明らかに禍々しいオーラを放ち、後ろには巨大な漆黒の翼を生やしている。


 「ここが最終ステージか……まるで魔王城みたいな雰囲気だな」

 ソウが剣を抜きながら呟く。周囲のプレイヤーたちも、すでに戦闘態勢に入っている。B級映画のセットさながらの空間に、不穏な音楽が響き渡り、ゲーム内の緊張感が一気に高まる。


 すると、クイーン・オーバーロード(NPC)のボイスが低く轟いた。

 「フフフ……人間どもよ。再び私の前に立ちふさがるつもりか? 学園を支配するのはこの私、クイーン・オーバーロード……命知らずの者たちよ、絶望を味わうがいい!」


 B級を通り越してC級レベルの台詞かもしれないが、それがかえって盛り上がる要素になっているのがこのゲームの醍醐味だ。周囲のチャット欄には「きたーー」「ボスの自己紹介長すぎw」などと書き込みが流れ、みんな興奮状態にある。


 そして、システムメッセージが赤文字で警告を出す。

 **「最終ボス戦 開始まで10秒……」**

 カウントダウンが始まり、プレイヤー全員が緊張を高める。ソウは隣にいるレナに向けて個人チャットで「息を合わせよう」と呼びかける。玲奈も「うん、私が回復するから、王子は前衛で思い切りやって」と返し、心を決める。


 ――3、2、1……バトルスタート!


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## ■ 二人の連携プレイ


 クイーン・オーバーロードが高笑いしながら巨大な闇エネルギーを放出。地面全体に黒い雷が走り、多数の雑魚モンスターも同時に召喚される。参加プレイヤーの一部は早々にダメージを受け、悲鳴のようなチャットを流す。


 「おいおい、範囲攻撃が予想以上に広いぞ!」「回復! 回復ちょうだい!」

 あちこちで混戦が始まり、大乱戦の様相を呈する。しかしソウはB級口調を封印し、冷静に指示を出していた。

 「前衛組は雑魚を引きつけつつ、クイーン本体には長射程の魔法攻撃を当てるんだ! レナ、悪いけどそっちのメンバーをフォローしてくれ!」


 指示された玲奈は回復系の魔法とバフ(強化)スキルを使い分けながら、味方全体のHPを維持する。強敵との戦闘ではどうしてもヒーラーが不足しがちになるが、今回のパーティには複数のサポート職が揃っているため、連携がうまく取れれば勝機は十分ある。


 途中、クイーン・オーバーロードが高笑いとともに地面を崩壊させる特殊攻撃を放ち、プレイヤーの足元に大きな亀裂が走る。数名が落下して別マップへ飛ばされる事態も起こるが、ソウは「焦るな! 雑魚はオレに任せろ!」と叫びながら範囲攻撃を炸裂させ、見事に敵の群れを一掃する。


 「レナ、そっちも大丈夫か!?」

 「うん、ちょっとヤバかったけどなんとか回復間に合った……!」


 ゲーム内ボイスチャットを併用しているメンバーも多く、混沌とした情報が飛び交うが、ソウとレナは長年の連携(実際にはゲーム内で比較的短期間かもしれないが、B級告白や演劇ステージを乗り越えてきた経験値)が活きている。二人が声を掛け合えば、回復のタイミングも攻撃のチャンスも自然と合致する。


 周囲のプレイヤーからも「王子とレナの連携ヤバい……」「あの二人、まるで息ぴったりだな」と感嘆のチャットが流れる。実際、ソウが攻撃を仕掛ける直前にレナが素早くバフ魔法をかけることで与ダメージを増大させたり、レナが狙われたときはソウが瞬時にタゲ(ターゲット)を引きつけるなど、見事な連携を見せている。


 **「クッ……なぜ、この私が……!」**


 クイーン・オーバーロードが怒りの声を上げ、さらに強力な闇魔法を繰り出す。地形ギミックが発動し、学園の地下空間が崩落しかけるような大エフェクトが画面を覆う。プレイヤーたちも慌てて攻撃を中断し、回避行動に回るが、それでも数名が崖下に落ちてダウンしてしまう。


 (まずい……仲間がどんどん減っていく。だけど、まだ核心まで削りきれてない……!)


 焦る玲奈。しかし、ソウはそんな状況でも「諦めるな!」と強気の台詞をチャットで送り、続けざまに範囲攻撃スキルを炸裂させる。


 「一気に決めよう。レナ、最後のバフを頼む!」

 「わ、わかった……“学園祝福魔法”発動!」


 バフアイテムのクールタイムが溜まっていたため、玲奈は学園イベント専用の超強力バフを仲間全員に付与する。ちょうどシステムが用意した“学園ソング”がBGMとして流れ出し、これこそまさにB級映画クライマックスのような盛り上がりを見せる。


 「今がチャンスだ、いっけえええええ!!」


 ソウの絶叫とともに前衛職が怒涛の攻勢をかけ、クイーン・オーバーロードのHPゲージが一気に削られていく。派手なエフェクトが画面を埋め尽くし、周囲のプレイヤーたちも最大火力を集中投下する。最後の一撃はソウの剣から放たれる巨大な光の斬撃。


 **「ぐああああああああ!」**


 クイーン・オーバーロードが断末魔を上げ、黒い翼が吹き飛ぶように霧散する。画面いっぱいに爆発エフェクトが広がり、システムメッセージのウィンドウが登場。


 **「クエストクリア! 学園編最終ボス“クイーン・オーバーロード”を撃破しました!」**


 チャット欄には「おつかれー!」「やったあああ!」と叫ぶ声が飛び交い、大勢のプレイヤーが歓喜のスタンプや花火エモーションを連発している。長かった学園イベントの最終章が、ついにここで決着したのだ。


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## ■ A級ランクへの昇格


 同時に、さらに大きなシステムメッセージが表示される。

 **「祝・A級ランク昇格! クイーン討伐チームは特別称号“A級”を獲得しました!」**


 これを待ち望んでいたプレイヤーが多く、拍手や喝采が画面を埋め尽くす。学園イベントには通常のレイドより厳しい参加条件や制限があったため、クリアできずに断念する人も多かったのだ。ここに集まったメンバーはまさに“精鋭”と呼べる人たちばかり。


 **「やった……A級だ……!」**


 玲奈はその文字を見つめ、嬉しさが込み上げる。現実のしがらみを忘れて全力でプレイした結果が、この達成感として返ってきた。チャット欄にはソウの名前で「学園の民よ、よくやった! これで我らはA級の英雄だ!」とB級台詞を打ち込む姿が映る。


 思わずプッと吹き出しそうになるが、なんだか嬉しい。さらにソウから個人チャットでメッセージが届く。

 『やったな、レナ。お前がいなきゃ絶対無理だった。息ぴったりで助かったよ』

 『私もそう思う……王子がいなかったら、たぶん途中でやられてた。ありがとう』


 もはや冗談だけではない。ふたりが築いてきた“B級王子と平凡女子”の関係性は、そのまま信頼感へと繋がっている。裏を返せば、中の人同士――颯太と玲奈の絆のあらわれでもある。


 周囲では仲間たちが戦利品やレア装備の確認に盛り上がっているが、ソウとレナはお互い静かに喜びを分かち合っていた。

 『本当に、A級になっちゃったね。私たち“B級”でいいのに……なんて半分思ってたけど、やっぱり嬉しい』

 『フッ、B級に甘んじるにはお前は惜しいさ。姫ならA級くらい余裕だろう?』


 王子キャラっぽい台詞を打ち込んでくるあたり、颯太の中にもまだゲーム内の演技が残っているのだろう。しかし、聞き手が玲奈だと分かっている今は、その裏にリアルな感情がにじみ出ているのを感じる。


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## ■ 現実パート:本音に触れる準備


 クイーン・オーバーロード討伐後、イベントエリアは一気に解放感に包まれ、プレイヤーたちは各自の目的で散っていった。ソウとレナも、友人たちとしばらくクエスト報酬の確認や雑談を楽しんでいたが、日付が変わりそうな頃に一息ついてログアウトを決める。


 パソコンをシャットダウンして一段落つくと、玲奈は深い溜息をついた。達成感と興奮の余韻がまだ身体に残っており、妙なアドレナリンが出ている。


 (でも、これが終わったら、現実でちゃんと話さなきゃいけないんだよね、颯太と……)


 オンラインゲームでは最大の目標を達成できたが、現実世界でも片付けるべき問題がいくつかある。杉野に正直に断ること、そして颯太とどういう形で進むのかをはっきりさせること。王子と姫の夢物語だけでは終われない――それは分かっている。


 (でも、王子……いや、颯太がちゃんと私のことを想ってくれているなら、私も答えを出さないと。曖昧なままにするのは失礼だよね)


 スマホを手に取り、颯太の連絡先を開く。LINEにはソウとの個人チャットとは別に、普段のやり取りがいくつか残っているが、すぐにメッセージを送るのは気が引ける。明日か、もしくは週末に会うときに、ちゃんと話そう。それが今の玲奈の答えだった。


 (明日、私から杉野さんに話して……それが終わったら、颯太に連絡しよう)


 そう心に決める。外は夜更けで真っ暗だが、クイーン・オーバーロードを倒してA級ランクを手にした興奮が、まだ身体を温めてくれるような気がした。


---


## ■ 颯太の夜


 一方、向坂颯太は自宅のデスクで、ログアウト後もしばらくパソコンの画面を見つめていた。B級王子としての大役を終え、仲間たちからも祝福され、A級ランクに到達した喜びを噛みしめている。


 (レナ――いや、玲奈と一緒に最後のクイーンを倒せてよかった……)


 この数ヶ月、ゲーム内での王子キャラに支えられながら現実の悩みをごまかしてきたが、千尋との別れが決定的になった今、もう“逃避”だけでゲームに入り浸る必要はないのかもしれない。そもそも、最近は王子の演技にもどこかぎこちなさが出ていた。


 それでも、学園イベントのクライマックスは全力で楽しむことができた。それは、レナ(玲奈)の存在が大きい。もし彼女がいなければ、自分がこんなに熱中して戦うことはなかっただろう。


 そして、現実でも彼女との関係を再構築していきたい――そう考えると、胸の奥がざわざわと落ち着かなくなる。杉野のことがあるのは分かっているし、玲奈も一筋縄ではいかない悩みを抱えている。すべてを解消するには時間と勇気が必要だろう。


 「でも、もう隠すのはやめよう。王子としても、颯太としても……オレの気持ちは同じなんだし」


 口に出してそう呟く。やや照れくさいが、今は誰も聞いていない。B級王子のキャラになりきっていた頃は、恋愛感情すら冗談めかして言うことができた。しかし現実では、はっきりと愛を伝えるにはもっと大人な態度が必要だ。


 (次に彼女に会うときは……ちゃんと気持ちを言葉にしよう。千尋とのこともケリがついたんだから)


 心を決めたところで、スマホに目を落とす。千尋との連絡が来ていないか確認すると、既読スルーになっているまま返信はないようだ。これから細かい荷物の受け渡しなどが必要になるだろうが、彼女も大きく傷ついているはず。あまり急かすのはよくないと思い、そっと画面を閉じる。


 (すまん、千尋……でも、これ以上は一緒にいられないんだ)


 胸の痛みは完全には消えないが、もう戻れない関係だと腹を括った。だからこそ、次の一歩を踏み出さなければ――その先に、B級じゃない“本物の恋”があると信じて。


---


## ■ 「今度、ちゃんと話そう」


 翌朝、玲奈は出勤前の慌ただしさの中で、LINEに一通のメッセージを送った。宛先は杉野翔平。どんな形で伝えるか迷った末、まずは会社の休憩時間に直接話がしたいと打ち込む。


 『杉野さん、私も話したいことがあるので、よかったらお昼に少し時間をもらえませんか?』


 すぐに「分かった。待ってる」と返事が来る。これ以上うやむやにせず、きっぱりと拒絶の意志を伝えなければいけない。後ろめたさもあるが、これ以上引き延ばしてもお互いに良い結果にはならない。


 会社へ向かう電車の中では、終始落ち着かない気分だったが、「A級ランク取れた」という達成感を思い出してなんとか自分を奮い立たせる。あの大勢の前でクイーン・オーバーロードを倒したように、ここでも勇気を持って気持ちを通そう――そんな風に自分を鼓舞する。


 そして昼休み。社内の空き会議室で杉野と二人きりになった玲奈は、相手のまっすぐな視線をしっかり受け止めつつ、「すみません、私やっぱり杉野さんとは付き合えません」とはっきり告げる。杉野は少し辛そうな表情を見せるが、「そっか、やっぱり……」と悟ったように頷いた。


 「もしかして、向坂さんのほうに気持ちがあるの? 最近、あれだけ揉めたから……」

 「それが理由の全部じゃないんです。私、どちらかというと他人に合わせるのが精一杯で……そういう気遣いを恋愛と取り違えちゃうかもしれない。でも、自分の本当の気持ちを誤魔化すのはもうやめたいと思いました」


 沈黙が少し続く。杉野は苦い笑みを浮かべ、仕方ないなという表情で肩を落とす。

 「そっか。……まあ、きっぱり言ってくれたほうが諦めもつく。ありがとう。仕事では、これまで通りよろしく頼むね」


 大人な対応に、玲奈は逆に胸が痛むが、こうして区切りをつけられたのは救いでもある。誰もが不完全なまま傷つくのは避けたいと思っていたが、これで少しは前に進めるだろう。


 定時後、玲奈はスマホを覗き込む。颯太から既に「今日時間ある?」と連絡が来ていた。思い切って「あるよ」と返事をすると、すぐに「じゃあ駅前のカフェで会おう」と返信が返る。


 (よし、私もちゃんと話したいことがある。今度こそはっきりさせなきゃ……)


 そう胸に決意を固め、彼女は会社を出る準備を始めた。杉野への回答を終えた今なら、もう自分に嘘をつく必要もない。問題は千尋がどう絡んでくるかという部分もあるが、颯太は既にけじめをつけたと話している。であれば、自分も正直に気持ちを伝えられるはずだ。


 “今度、ちゃんと話そう”――そう約束できるのは、現実でもゲームでも同じこと。B級かつハイテンションで駆け抜けた学園イベント最終章とは対照的に、現実の対峙はもう少し繊細なやり取りになりそうだが、それも含めて受け止める覚悟がある。


 (A級ランク取れたのも嬉しいけど、私が本当に欲しいものはきっと、それ以上の何か……だよね)


 パソコンの電源を入れずに家を出る。今夜はもうゲームに逃げなくてもいい――そう思えたのは、大きな前進かもしれない。駅前の風はまだ暑さを残しているけれど、心の中には少しだけ爽やかな風が吹いている気がした。


 かくして、**大型アップデートでの最終ボス“クイーン・オーバーロード”討伐**に成功し、レナ(玲奈)とソウ(颯太)は“A級ランク”という大きな目標をゲーム内で達成した。しかし、現実ではまだ微妙なすれ違いと心残りが多々存在し、二人はようやくそれに向き合う準備を整えた段階だ。


 次の第10章で、頑なだった気持ちがどのようにほどけていくのか、そして二人の恋愛関係が結実するのか――さらに、**後日談(エピローグ)**を1万文字規模で追加することで、物語をより大きく、余韻を残す形で完結させることが可能となるだろう。そこでは、A級達成後のゲーム内イベントや、現実世界での二人の未来、周囲の人々の反応なども描き込み、読者に十分な満足感を与えることができるはずだ。


 こうして幕を開けた**「A級昇格への最後の戦い」**は、物語全体のクライマックスを彩る一大イベントとして大成功を収めた。あとは、玲奈と颯太が実際に“B級を超えた”真実の想いをお互いに伝え合い、より深い関係へと踏み出すのみ――。

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