第11話 裏切りの真相

安全なエリアに逃れたジウン、チェ、そしてパクだったが、彼らの表情に安堵はなかった。目の前の静けさが、むしろ次に襲いかかる嵐の前触れのように感じられた。


「ここでじっとしている時間はない。」

チェが口を開いた。


「次はどこへ向かうんですか?」

ジウンはすぐに問いかけた。彼女の声には疲れがにじんでいたが、諦める気配はなかった。


「航空会社の上層部に繋がる直接的な証拠を掴む必要がある。そのためには、貨物機の運航記録、特にその積荷の詳細を確認しなければならない。」

チェの言葉にパクがうつむいた。


「運航記録か……だが、それを手に入れるのは容易じゃない。」

パクが呟くように言う。


「確かに簡単じゃないが、君はその記録にアクセスできる立場にいたはずだ。」

チェはパクをじっと見つめる。その視線に、パクは何かを飲み込むような仕草をした。


「……私が手配してみよう。ただし、時間が必要だ。」


「時間はない。明日にはすべての証拠が隠蔽されるかもしれない。」

チェの声が冷たく響いた。


ジウンとチェが話を進める中、パクはスマートフォンを手に取り、何かを操作し始めた。彼は連絡を取ると言い残し、部屋の隅に移動する。その背中に、ジウンは微かな違和感を覚えた。


「彼を信じていいんでしょうか?」

ジウンが小声でチェに尋ねる。


「わからない。だが、彼が鍵を握っているのは確かだ。彼が動かない限り、我々が欲しい情報にたどり着けない。」

チェは淡々と答えたが、その声には警戒心が含まれていた。


パクは電話を終えると、少し緊張した様子で戻ってきた。


「……運航記録にアクセスできる端末が、航空会社の保管室にある。それを使えば記録を引き出せるはずだ。ただし、厳重に管理されている。」


「それで十分だ。場所を教えてくれ。」

チェがすぐに応じる。


「いや、私も一緒に行く。」

パクが強い口調で言った。その提案に、チェは一瞬だけ考えた後、頷いた。


深夜、三人は航空会社の保管室がある施設へと向かった。ビルの周囲はひっそりと静まり返っているが、建物内の明かりが、誰かがまだ中で働いていることを示していた。


「ここに記録がある。だが、内部には警備員がいるはずだ。」

パクが低い声で言う。


「警備を引きつけるのは俺がやる。君たちは目的の部屋に入れ。」

チェが指示を出すと、ジウンとパクは頷いた。


二人は慎重に建物の裏口から侵入し、静かに廊下を進んだ。パクが案内する部屋のドアにはセキュリティコードが設定されていた。


「私が解除する。」

パクはポケットから端末を取り出し、ドアのロックを解除し始めた。


その瞬間、ジウンの背後に影が差し込んだ。


「動くな。」

低い声が響く。振り返ると、スーツ姿の男が銃を構えて立っていた。ジウンの心臓が凍りつく。


「これは……どういうこと?」

ジウンが震える声で尋ねると、パクは顔を伏せたまま呟いた。


「……すまない。私には、もう選択肢がなかったんだ。」


「裏切ったのね。」

ジウンがパクを睨みつけると、彼は苦渋に満ちた表情で答えた。


「私の家族が……脅されているんだ。協力しなければ、家族がどうなるかわからない。だが、君たちを完全に売るつもりはない。真実を暴きたい気持ちは本当だ……ただ、家族を守りたいだけなんだ。」


「それで私たちを犠牲にするの?」

ジウンの目に怒りと失望が浮かぶ。


そのとき、廊下の向こうから足音が聞こえた。チェが銃を構えたまま現れ、スーツ姿の男に向けて冷たい視線を投げた。


「放せ。」

チェの声は低く鋭かった。


男は一瞬躊躇したが、周囲に増援がいないことに気づき、銃を下ろした。チェが素早く動き、男を取り押さえる。


「パク、俺たちを売るなら、それなりの覚悟があるだろうな。」

チェが静かに言ったその言葉に、パクは顔を歪めた。


「本当にすまない……だが、まだ間に合う。記録を取れ。私が時間を稼ぐ。」


ジウンとチェは、パクの指示で保管室に侵入し、端末を操作して運航記録をダウンロードし始めた。画面には、貨物機の詳細なスケジュールと積荷リストが表示される。


「これだ……EMP装置、搭載が確認されている。」

チェが画面を見つめながら言った。


「これで証明できるんですね?」

ジウンが確認すると、チェは頷いた。


「だが、これを公表するにはさらに動きが必要だ。この記録だけでは、奴らを完全に追い詰めることはできない。」


データをUSBに保存し、二人は保管室を後にした。その間、廊下ではパクが残って敵の注意を引きつけていた。彼が銃を構える姿が一瞬目に入ったが、ジウンは目を背けた。


「ありがとう……。」

心の中でつぶやきながら、彼女はチェと共にその場を去った。


次回予告


ついに貨物機の積荷と事故の関連性を示す証拠を手に入れたジウンとチェ。しかし、敵は彼らを完全に排除するため、さらなる手を打とうとしていた。次回、二人は真実を世に広めるため最後の手段に出る。一方、犠牲を払ったパクの運命が明らかになる――。

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