第7話 積荷の正体
ジウンは、チェと共に貨物機が所属する多国籍物流会社の倉庫へ向かっていた。そこは、ソウル市郊外の人気の少ない工業地帯にあり、ひっそりと佇んでいる。その場所にある何かが、事故の真相を明らかにすると確信していたが、同時に胸の中では不安が膨らんでいた。
「チェさん、ここで何を探すんですか?」
ジウンは不安げに尋ねた。
「貨物機が運んでいた積荷について、ここに手がかりがあるはずだ。事故当日に滑走路を占有していた理由、それが事故にどう影響したのかを突き止める必要がある。」
チェは資料を確認しながらそう答えた。
倉庫の外は静まり返っていたが、その静けさが逆にジウンを緊張させた。周囲に人影は見当たらないが、誰かに見られているような気がしてならなかった。
倉庫の入口には鍵がかかっていたが、チェは手際よく道具を取り出し、数分で鍵を開けた。ジウンは驚きながらも、言葉を飲み込んだ。倉庫の中は暗く、わずかな隙間から差し込む光が、埃っぽい空気の中でかすかな光芒を作っていた。
「静かに。誰かいるかもしれない。」
チェが耳打ちしながら、慎重に歩みを進めた。
倉庫の奥には巨大なコンテナがいくつも並んでおり、それぞれに番号が振られている。チェはその中の一つに目を止めた。
「これだ。事故当日に滑走路を塞いでいた貨物機の積荷リストに、この番号があった。」
チェはポケットから小さなツールを取り出し、コンテナの鍵を開け始めた。ジウンは心臓の音が耳に響くほど緊張していた。
コンテナが開いた瞬間、ジウンは息を呑んだ。その中には、見たことのない金属製の機器がいくつも詰め込まれていた。表面には見慣れない記号が刻まれており、一見して普通の積荷ではないことがわかった。
「これ……何なんですか?」
ジウンが震える声で尋ねた。
チェは機器を手に取り、慎重に観察した。
「軍事用通信装置だ。それも最新鋭のものだな。これが事故当日に滑走路を占有していた理由だ。そして、事故機に影響を与えた可能性が高い。」
「影響って……どういうことですか?」
ジウンは言葉の意味を理解しようとした。
「この装置が作動した際に、電磁波干渉を引き起こした可能性がある。旅客機の制御システムやエンジンに影響を与えたのかもしれない。」
チェは静かに言葉を続けた。
ジウンはその説明を聞きながら、事故当日に見た「閃光」を思い出していた。あの閃光は、この装置が発生させたものだったのだろうか?
突然、倉庫の外から足音が聞こえた。ジウンとチェは顔を見合わせ、息を潜めた。足音は複数人のもののようだった。ドアの外で何かが話されているが、内容は聞き取れない。
「誰か来た。ここを見つけられる前に、出なければならない。」
チェは小声で言い、装置の一部をポケットに押し込んだ。
しかし、次の瞬間、倉庫のドアが激しく開け放たれ、懐中電灯の光が中を照らした。
「誰だ!そこにいるのは!」
低い怒声が響いた。
チェはジウンの手を掴み、急いでコンテナの裏に隠れた。懐中電灯の光がコンテナの間を行き来し、何人かの影が倉庫内に入ってくるのがわかった。
「見つけたら捕まえろ。逃がすな。」
リーダー格らしき男の声が響く。
チェは小声でジウンに指示を出した。
「落ち着け。出口は向こうだ。彼らが奥に進んだ隙を狙って走るぞ。」
ジウンは震える手を握りしめ、頷いた。
チェの合図で、二人は倉庫の隅を駆け抜け、出口に向かって走り出した。後ろから怒声が飛び、足音が迫ってくる。
「止まれ!撃つぞ!」
男たちの一人が叫ぶが、チェは振り返らず、ジウンの手を引きながら全力で走った。
倉庫の外に出た瞬間、冷たい夜風が二人を包み込んだ。車が見える距離まで来たところで、チェは振り返り、追っ手が近づいていないことを確認した。
「急げ!車に乗れ!」
チェの指示で、ジウンは必死で車に駆け込み、助手席に乗り込んだ。チェは運転席に滑り込み、エンジンをかける。
車が倉庫から離れるとき、ジウンは後部ミラー越しに追っ手たちが慌てて倉庫から飛び出してくるのを見た。その中には、黒いコートを着た男の姿もあった。
車内の緊張が少しずつ解けると、ジウンは深く息を吐き出した。チェは無言でハンドルを握り続け、険しい表情を浮かべている。
「チェさん、あの装置が事故の原因なんですか?」
ジウンが問いかけると、チェは短く頷いた。
「可能性は高い。しかし、それを証明するにはさらに多くの証拠が必要だ。そして、この件に関わる勢力は、その証拠を隠そうとしている。」
「でも、私は知りたいんです。事故で亡くなった人たちのためにも、真実を明らかにしなければ……。」
ジウンの声には決意が込められていた。
チェは一瞬彼女を見つめた後、小さく頷いた。
「わかった。だが、覚悟しておけ。この先に待っているのはさらに大きな危険だ。」
次回予告
逃れられない追跡、そして隠された真実。貨物機の積荷が示すものは何か?それを巡る勢力の対立がジウンとチェに迫る。次回、ジウンはさらなる証拠を掴むため、危険な取引に足を踏み入れる。真実の鍵を握る人物との接触が、物語を新たな局面へと導く――。
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