第6話 貨物機の影

パク・ジウンは、事故後初めて外に出た冷たい夜の空気を吸い込みながら、心の中に膨らむ不安を押し殺していた。チェ・ギヨンの指示に従い、自宅から出て指定されたカフェへと向かう。監視されているという現実を前にして、ただじっとしているわけにはいかなかった。


カフェに到着すると、チェがすでに席についていた。資料が広げられており、彼の顔には疲労の色が浮かんでいる。それでも、彼の目は鋭く、何かを見据えているようだった。


「急に呼び出して申し訳ない。しかし、状況が動き始めている。」

チェは資料を指で叩きながら言った。


「監視されているって、どういうことですか?私に何の関係が?」

ジウンは恐る恐る口を開いた。


「君が事故現場で見つけたあの破片。それがこの一連の監視の理由だろう。問題は、その破片が航空機の部品ではなく、ある“特別な機器”の一部である可能性が高いということだ。」


チェはポケットからスマートフォンを取り出し、スクリーンに表示された画像を見せた。それは、事故現場で見つかった破片の写真と、それに似た軍事用電子機器の設計図を比較したものだった。


「軍事用……?でも、それがなぜ旅客機に?」

ジウンは信じられない思いで口を開いた。


「それが問題だ。さらに調べて分かったのは、事故当日、この空港に滑走路を占有していた貨物機が、軍事技術に関連した積荷を運んでいた可能性があるということだ。」

チェは静かに説明を続けた。


「そして、事故機が着陸を試みたタイミングで、その貨物機が急いで離陸準備をしていたという報告もある。つまり、事故と貨物機は無関係ではない。」


ジウンは言葉を失った。事故が単なる偶然ではなく、何かの“衝突”によって引き起こされたのではないかという考えが頭をよぎった。


チェはさらに詳しく説明を続けた。


「問題の貨物機は、ある多国籍物流会社が所有している。表向きは一般的な貨物輸送だが、過去に軍事関連の荷物を運んだ記録がある。今回も、その可能性が高い。」


ジウンは思わず口を挟んだ。


「でも、それがどうして私たちの事故に関係しているんですか?」


チェは少し言葉を選んだ後、口を開いた。


「バードクラッシュが事故の原因だと言われているが、その前に何かがあった可能性がある。貨物機の積荷に何か問題があり、それが旅客機に影響を及ぼしたのではないかと考えている。」


「影響……?具体的には?」

ジウンの心臓が早鐘のように鳴る。


「電磁波干渉や何らかの衝撃波だ。軍事用機器が誤作動を起こし、旅客機のエンジンや機体制御システムに影響を与えた可能性がある。特に、君が見たという“閃光”がその証拠になるかもしれない。」


ジウンは震える手で自分の額を押さえた。事故の瞬間に見た閃光――その記憶が、徐々に鮮明になりつつあった。


その夜、チェとジウンは空港の整備士イ・ソンギュに会うため、秘密裏にコンタクトを取った。イ・ソンギュは事故機の整備を担当していたが、事件以来沈黙を守っていた人物だ。


ソウル市内の小さな居酒屋で、ソンギュは酒を飲みながら重い口を開いた。


「……あの日、何かがおかしかった。」

彼の声は低く、途切れがちだった。


「事故機の整備には問題がなかったはずだ。それなのに、突然エンジンが止まった。ありえないんだ、普通じゃない。」


「貨物機について何か知っていますか?」

チェが核心を突く質問を投げかけると、ソンギュは顔を強張らせた。


「貨物機……?ああ、そうだ、滑走路を塞いでいたのはあの機体だ。航空会社の上層部が“優先的に処理しろ”と指示してきた。中身については知らされていないが、何か普通じゃない荷物が積まれていたとしか思えない。」


ジウンは息を飲んだ。空港の職員ですら知らない積荷――それが事故の引き金になった可能性が高まる。


居酒屋を出た後、ジウンは背後に誰かの視線を感じた。振り返ると、暗がりに人影が立っている。黒いコートを着た男が、じっとこちらを見つめていた。


「チェさん、あの人……!」

ジウンが小声で言うと、チェもすぐに気づいた。


「動くな。そのまま様子を見よう。」


男はしばらく立ち尽くしていたが、やがてゆっくりと背を向け、路地の奥に消えていった。


「今のは明らかに監視だな。」

チェは険しい顔で呟いた。


「私、巻き込まれているんですか?」

ジウンの声は震えていた。


「いや、君はもう中心にいる。真実を突き止めるか、それとも逃げるかは君次第だ。」


次回予告


貨物機の謎、軍事機器の影、そしてジウンを監視する勢力の存在――。事故の真相は徐々に明らかになりつつあるが、同時に危険がジウンを取り囲む。次回、彼女とチェは貨物機の積荷の詳細を突き止めるため、さらなる行動に出る。しかし、その先に待ち受けるのは、予想を超えた恐怖と衝撃の真実だった――。

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