第5話 迫る影

ジウンは病院のベッドの上で何度も事故現場の光景を思い出していた。あの焦げた破片、鋭い閃光、そして自分を襲った得体の知れない不安感。事故はただの機械的なトラブルではないという直感が胸を締め付ける。だが、その正体を掴むためには、もっと多くの証拠が必要だった。


その時、スマートフォンが鳴り響いた。画面には「非通知」の文字が表示されている。ジウンは一瞬ためらったが、結局電話に出た。


「……もしもし?」


「これ以上調べるな。」


低く冷たい声が電話越しに響いた。瞬間、背筋が凍りつく。


「何を言っているんですか?誰ですか?」

ジウンが問い返すと、相手は何も答えず、ただこう続けた。


「あなたが見つけたものを忘れろ。命が惜しければな。」


そして、通話は一方的に切られた。


その夜、ジウンは一睡もできなかった。電話の声が頭から離れない。誰が、何のためにこんなことを言ってきたのか?事故を調べるなと言うことは、そこに何かを隠そうとする意図があるはずだ。


翌日、調査官のチェ・ギヨンに連絡を取った。


「チェさん、昨日……奇妙な電話がかかってきました。誰かが私に『調べるな』と言ってきたんです。」

ジウンの声は震えていた。だが、チェの反応は意外と冷静だった。


「それは予想していました。あなたが事故現場で見つけたあの破片、航空機の部品ではない可能性が高い。私たちも調査を進めていますが、その存在を隠そうとする勢力がいるのは間違いないでしょう。」


「じゃあ、あの破片は一体何なんですか?」


チェは一瞬言葉を詰まらせた後、ため息をついた。


「まだ断定はできませんが、軍事関連の電子機器の一部である可能性が浮上しています。事故機の近くに、何らかの軍事技術が関与していたと考えると辻褄が合う部分があります。」


「軍事技術……?」

ジウンは息を呑んだ。事故がただの機械トラブルではなく、もっと大きな背景を持つものである可能性が、彼女の胸をざわつかせた。


その日の午後、チェはジウンを連れて務安国際空港の管制室を訪れた。管制塔内の雰囲気は張り詰めており、職員たちの顔には疲れが滲んでいる。事故の余波がまだ空港全体を覆っているようだった。


チェは管制官のハン・ジェミンと向き合い、事故当日の無線記録について話を切り出した。


「事故機が胴体着陸を試みた際、滑走路にフォームが撒かれていなかった理由をお聞かせください。通常ならば、緊急時に対応するべき措置が取られていないように見受けられます。」


ハンは視線を逸らし、言葉を濁した。


「……フォームを撒く時間がありませんでした。あの状況では……」


「本当にそれだけですか?」

チェの鋭い問いかけに、ハンは汗を拭いながら答えた。


「事故当日は、上層部から優先指示が出ていたんです。ある貨物機が滑走路を占有していて、その解除が遅れた……。」


「貨物機?」

ジウンが口を挟むと、ハンは明らかに動揺した表情を見せた。


「それ以上は……お話しできません。」


空港からの帰り道、ジウンはチェとともに車内で深く考え込んでいた。


「貨物機が滑走路を占有していた……。あの事故機が優先されなかった理由がそこにあるんですね?」

ジウンの問いに、チェは頷いた。


「その貨物機について調べる必要があります。ただし、この件に関わる情報はかなりデリケートだ。注意して行動しなければならない。」


「私も調べます。犠牲になった人たちのためにも、真実を知りたいんです。」

ジウンの声には決意が込められていた。彼女の心には、ヘリや他の犠牲者たちの顔が浮かんでいた。


「いいでしょう。ただし、あなた自身の安全を最優先に考えてください。」

チェはそれだけ言うと、運転に集中した。


その夜、ジウンは自宅で資料を整理していた。貨物機についてネットで調べるが、具体的な情報はほとんど出てこない。焦りが募る中、窓の外で不審な気配を感じた。


カーテンをそっと開けると、暗闇の中に停まった黒い車が見えた。車内の人影は動かないが、確実にこちらを見ている気配がある。


「誰……?」

ジウンは恐怖に駆られながらも、スマートフォンを手に取りチェに電話をかけた。


「チェさん、私の家の外に誰かがいます……監視されているみたいです。」


「いますぐ窓から離れろ!そして電気を消して、静かにしていてください。」

チェの指示に従い、ジウンは部屋の電気を消した。暗闇の中で息を潜めながら、彼女の心臓は激しく鼓動していた。


次回予告


貨物機の存在、隠蔽される破片、そしてジウンを監視する謎の勢力――。事故の背後に広がる闇が徐々に明らかになっていく。しかし、真相を追うジウンにさらなる危険が迫る。次回、貨物機の正体を突き止めるため、ジウンとチェが新たな行動を起こす。そして、彼らを待ち受けるのは想像を超える真実だった――。

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