第3話 不幸のカタチ

 私は独りでベッドに横になり、天井を見上げていた。


「眠れないの?」


 いつの間にか椅子に座ったアイがこちらをみている。アイの問いに沈黙で答えた。


「静かな夜ね、私が死神だったら、連れて行ってしまいそう」


 呼吸が苦しくなる。これはアイの妖術らしい。


「前にも言ったと思うけど、契約以上のことはしているつもりよ」


 紅く輝く『祈りの石』を取り出してアイに渡す。


「嘘つき……最近の輝きは鈍くてよ」


 真由美の存在が不幸の塊である『祈りの石』の輝きを鈍らせているのか……。


「ふ、私に友達は贅沢とでも言いたいのか?」

「友達の存在自体はむしろ歓迎するわ。例えば友達の死とか、不幸のあり方が変わるだけ」


 私は髪を激しく掻いて不快感をあらわにする。この魔女は目的の為なら真由美を殺すというのか?


 アイを睨み付けるが涼しい顔をしている。私は苦しい呼吸を我慢して部屋を出てキッチンに向かう。


 水道から水をコップに注ぎ一口飲む。アイの妖術が解けて呼吸が楽になる。


 それとも、私の肺が病気なのかと思う。また……入退院生活に戻るのかと不安を隠せないでいた。


 アイと向き合って解決しなければ。私は自室に戻るとアイはいなかった。


 魔女か……。


 机の上に『祈りの石』が置かれていた。この『祈りの石』は血を呑むのであろうか?


 リストカットして血を与えたい気分であった。私の血で真由美の命と交換できるなら……。


 しかし、急激な眠気に襲われていつの間にか寝ていた。


 今日も保健室中のベッドに座り絶対正義を遊んでいると。白い顔をした美亜が入ってくる。黒いオーラが立ち込めていて不気味であった。


 私の隣に座ると美亜の口元が近づいてくる。そっと、抑えられて重なる唇は甘い匂いがした。


 私が振りほどくと。


「私、死神と契約したの……これで、私は死の使いよ」


 美亜は自分が死神になったと言い出したのだ。それは、私に対する死への誘いであった。急いで保健の先生を探す。


「美亜が!美亜が!」

「落ち着いて、美亜さんがどうしたの?」


 私が保健の先生にすがると。


「先生、心配しないで、簡単な追いかけっこよ」


 美亜は笑顔で話し始める。勿論、そんな優しい事態ではない。


「聞いて……私愛されて生まれた子でないの……だから死の使いになれたの」


 何時も、無口な美亜が語り出す、これが死の使いになった美亜なの……。


「よく、分からないけど喧嘩はダメよ」

「はーい、終わりの時は一瞬で済むわ」


 意味深な言葉を残して、美亜は奥のベッドに向かい横になった様だ。


 私は怖くなり三階の空き教室に逃げ出すのであった。そこにはアイが座っていた。


「アイ、美亜が、美亜が……」

「君は本当に不幸だね、普通は死の使いに目を付けられたりしないわ」


 そう、簡単に言えば美亜が死神になったのだ。


「これは契約には無い事態だ、本当に殺されかけたら私が助けるわ」


 複雑な気持ちでいると、更にアイが喋り始める。


「でも、私にメリットが少ないのよね。気が向かなかったら、見殺しにするかも」


 気ままな魔女の言葉である。多分、本当の事であろう。


 うん?


 着信だ、真由美からに違いない。このままでは真由美を巻き込んでしまう。


 そんな思いを感じてか、曇り空から雨が降りだす。一瞬の迷いから抜け出して、携帯の着信に出るのであった。


 そう、私は真由美への感情に素直になる事にした。

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