第4話 メロンサラダ
図書館で本を読んでいる女がいた。少し擦り切れた赤色の背景に金色の花が光っている装丁が美しい。僕はそれを見るのは多分、初めてじゃない。僕はそのまま彼女の座る席に近づいて…
「想くん」
彼女がそう言った瞬間、目の前の光景は消えた。夢、だった。シイナに話したせいだろうか。あの人の夢だ。
あの人を忘れられない。いつからだろうか。彼女の夢を見るのは。
彼女、momo*と出会ったのはtictacだ。主に画像や文章の投稿をするSNSアプリ。僕のアカウントは大学1年で初めてフォロワーが3000人にのぼるインフルエンサーのような状態になっていた。身バレしないように女子大生ということにし、時々趣味の女装を披露すると瞬く間にフォロワーが増えた。
momo*は至って普通の女性のアカウントだった。ただ年齢や職業が不詳だった。年上で彼氏がいたことがない、女子大を卒業した、文学部だった、教育者を目指していた等情報は集めた。他の女性アカウントと共に。僕はフォロワーの多いアカウントではなく、初めは別アカウントで近づいた。
僕"こんにちは。めろんさらだというアカウントの中の人のアカウントです"
一日中返信を待っていた。しかし、何も来ない。別の日、めろんさらだのアカウントで彼女にメッセージを送った。
めろんさらだ@きらきら女子大生"突然すみません。メッセにめろんさらだの名を出してくる怪しいアカウントが多発しています。momo*さんのところにはそういった怪しいメッセはありませんでしたか"
少々長くなったが、仕方あるまい。
すると通知が来た。
momo*" はい、メッセ来ました。"
めろんさらだ@きらきら女子大生"それ、私じゃないんでアカウントは無視してください。"
momo*"はい"
まずい。メッセージが途切れる。僕は慌ててメッセージを送る。
めろんさらだ@きらきら女子大生"嘘つきました。ごめんなさい"
momo*"嘘ってなんですか"
めろんさらだ@きらきら女子大生 "あなたの気を引きたくて嘘ついちゃいました。たまにコメントくれるから話してみたくて"
momo*"話したいなら普通に話しかけてきたらいいのに"
めろんさらだ@きらきら女子大生"普通って?"
momo*"メッセではなく、私にコメントくるらたらいいのに、と思いました"
めろんさらだ@きらきら女子大生"ごめんなさい。鍵アカウントじゃないから他のフォロワーから見られると差し支えるので。最近アンチも多くて"
そして僕は勝負に出る。
めろんさらだ@きらきら女子大生"僕は本当は女子大生じゃないんです"
急に通知がそこで途切れる。momo*は僕をどう思ったのだろうか。正確にはめろんさらだ@きらきら女子大生、を。
彼女の返事を待ちつつ風呂や歯磨きを済ませたら深夜10時を回っていた。しかし、通知音は鳴らなかった。急にアルコールが欲しくなり、コンビニに出かけることにした。今月は余裕があったのでと赤玉パンチとつまみを買ってささっと帰宅した。スマホを確認すると通知が来ていた。
momo*"少し話しませんか"
あの澄んだ空は君と見たかった しふぉん @harukakitaayase
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