雪崩

 「はぁ、はぁ、らるむはちゃんとリスポーン出来たかな。」


 奥義でバチャ豚達を一掃した遥人は疲れ切っていた。らるむが無事リスポーンしたことさえ確認できれば、家に帰って寝たい。それが永遠の眠りになりかねない状況なのは理解していたが、それほどの疲労感だった。



……ドゴゴゴゴゴォォォォォ



 「な、なんの音だ!モ、モンスターか?!」

 「山が揺れてるっ」

 「じ、地震か?!また隕石か?!」


 まだ残っていたギャラリーが怯えたように口々と叫ぶ。周囲の山々が巨獣の唸り声のような不気味な音を発している。


 「雪がっ、こっちに来るっ!!」


 本来なら動くはずのない積雪。ところが主人公の放った「星辰落落」の隕石の衝撃が雪に伝わると、スキル「フィールド改変」の効果が波及し、本来動かないはずのオブジェクトの雪が動くようになってしまったのだ。


 周囲を取り巻く急峻な山々に、現実なら有り得ない膨大な量の雪が降り積もっている。それが雪崩となって押し寄せてきたのだ。


 「ほ、本当にリスポーンできるんだよな……?」


 四方八方から押し寄せる大雪崩を前に、ギャラリーの1人が呆然と立ち尽くしながらつぶやく。雪煙が立ち上り自身の背丈など遥かに超える雪の壁が超高速で迫ってくるのだ。いまだかつてない光景にリアルな死を覚悟するのも当然だった。


 「……なーんだ、そういうことか。」


 主人公はというと、一人落ち着き払っていた。さっきのらるむの苦しむ姿をみれば、雪崩に巻き込まれたら遥人はリスポーン出来ずに死ぬのだろう。だが不思議と死の恐怖を感じなかった。


 「もともと雪山で死んでたはずだもんな。転生できて推しとも会えたんだから、十分だろ」


 らるむからもらったネックレスを無意識のうちにゆっくりとなでる。まさか推しと握手が出来るなんて思わなかったな。推しのとびきりの笑顔も見れた、直接話もできた。しかもリスナー全体じゃなくて俺に向けて、だ。どれもこれも生きていたからこそ巡り会えた喜び。


 「……2度目の転生に期待するより、今あがいた方が良さそうだな」


 あと数秒で津波のような雪の壁が到達する。遥人は雪原に倒れ込み、衝撃を受ける部位を最小限に減らそうとする。もうひとくれの土を掘る力も残ってない。すぐに轟音を立てながら巨大な雪崩が押し寄せ、遥人の姿は雪の海の中に飲み込まれていった。


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