VTuber雪宮らるむとの出会い

 洞窟にたどり着いた遥人は、モンスターをかわしながら洞窟の奥へ奥へと進んでいく。


 「幻影の洞窟というだけあって、幻想的でキレイだなぁ」


 洞窟内の景色をみてありきたりなコメントをする遥人。だが、語彙がないだけで、遥人はその圧倒的な景色に心奪われていた。どんな世界遺産をも上回る現実世界さながらの絶景を目にして、遥人の気分は高揚していた。


 そのせいもあって、中ボスに苦戦するプレイヤーが目に入ると、高揚した気分そのままに思わず声を掛けてしまう。


 「大丈夫ですか?!」


 「え?!急にだれ?!」


 混乱するプレイヤーを脇において、遥人は挨拶代わりとばかりに渾身の一撃を中ボスに食らわす。


 ピギィイイイイイイッッッ!!!


 遥人の一撃で絶命に至った中ボスは雲散霧消し、呆然とした顔の“推し”が残された。


 「え、なになに?!運営さんからこんなの聞いてないんですけど?!」


 目をまん丸にして慌てふためく少女。瞳は流氷のように青く澄んでいて、キツネの耳を付けた可愛らしい顔立ち。遥人の推しである人気VTuberでレジェエルの公式アンバサダーでもある雪宮らるむその人だった。


 間近で見る推しに圧倒されながらも、運営にバレないように極力ソロプレイを貫いてきた戦略が破綻した事に遥人も動揺していた。


 公式アンバサダーが今度解禁される新しいステージにいる時点で嫌な予感しかしない。


 「もしかして、これ配信してます?」


 「も、もちろん!先行プレイ配信だけど?なになになに?」


 終わった。運営はもちろんほかのプレイヤーにも見つからないようにソロプレイしてたのに、公式配信に乱入するとか笑うしかない。今回のアップデート、結構盛り上がってたし同接5万くらいはいくんじゃないか?


 遥人は完全に開き直った。もうここまで来たらこの場を楽しもう。配信を盛り上げるには……っと。


 「おれ、事故で死んだと思ったら村人に転生したんすよ。」


 遥人は、らるむをまっすぐ見つめながら不敵な笑みを浮かべる。強烈なフリだ。オレの見てきたらるむなら、こういうフリが大好きなはず。


 「転生!!私も転生モノ大好き♪」


 さっきまでの動揺が消え、ノリノリになるらるむ。配信者ならこんな面白いネタに食いつかないはずがない。遥人は知る由もなかったが、まさかの転生キャラの登場にリスナーは大盛り上がりしていた。


:ててててて、転生?!

:運営ぶっ込みすぎwww

:自称転生村人さん、新ステージの中ボスをワンパンしてしまう


 同接人数がみるみる膨れ上がっていく。雪宮らるむが配信者をやっていて最もアドレナリンが出る瞬間だ。運営は混乱しているがそんなの関係ない。


 「転生といえばさ。チートスキルはもってるの?」


 「もってるぜ!おれは“フィールド改変”スキルって呼んでる。」


 「なにそれ地味そう」


 「うるさい!地味だけど強いんだぞ!」


:これAI?

:運営が中の人でしょ

:そのわりに運営、テンパってない?


 今日は新ステージの公式先行プレイとあって、運営のプロデューサーも同席しているのだが、リスナーからみても明らかに混乱していた。そんな運営をよそに、遥人とらるむの2人はすっかりこの場を楽しんでいた。


 「ほら、地面掘れるんだぜ!」


 「ごめん、まじで地味」


 「と思うだろ?でも、こうやって剣を突き刺すとモンスターが落ちて勝手にやられる。」


 「ちょっと強さ出てきたけど、やっぱり地味すぎ!」


 「そんなことないって!ここに落とし罠設置したら、きっと30秒以内に落ちるからさ」


 「30秒も待ってたら、モンスターもリスナーも落ちるってば!」


:おもしれー男

:この場馴れした感じ、中の人は運営確定

:いや、おれにはわかる。コイツはガチの転生者

:おれ、今からレジェエル転生するんだ

:これもうわかんねぇな

 

 普段陰キャやってる遥人とは思えないほど、スムーズに会話できることに遥人自身が驚いていた。転生ライフで自信がついたのか、雪宮らるむのトーク力がすごいのか。ソロプレイが大好きな遥人も、らるむみたいな子とバーティーを組んだら案外楽しいのかもしれないと思い始めるほどだった。


 しばらく2人でコントめいたやり取りをしてる間に、無事モンスターが罠にかかり身動き取れず、継続してダメージが入り出す。


 「あははははっ、かわいそうだけとモンスターがブルブル震えてておもしろーい。」


 「だろ?そのうち勝手にやられて、しばらくしたらまたモンスターがポップして穴に落ちての繰り返し」


「チート!チート!」


 爆笑するらるむ。どうやら開き直って正解みたいだ。遥人はなにかに勝利した気分に浸る。実際は、ソロプレイが破綻した時点で敗北してるわけだが。


 「キミさ、明日のクリスマス配信においでよ!コラボしよ♪」


 もうクリスマスなんだ。事故が起きてから1ヶ月くらい経ってるのか。学校や親は、そんな思い入れのある存在ではないし、無謀な登山でバカにされてるだろうから今更どうでもいいけど。


 「明日暇だから、コラボしていいっすよ」


 「やった♪今日ほんとは中ボス倒して配信終わる予定だったのに、キミが楽しくて時間オーバーしちゃった。」


 ちょっと照れたようならるむの笑顔に、ついときめく遥人。さすがは推しだ。存在がバレた以上、運営にBANされるのも時間の問題だろうが、せめて明日のクリスマス配信までは生きていたい。


 機能不全の運営を置いてけぼりにしたまま、公式先行プレイ配信はこうして終わったのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る