第2話昔を思い出す話

 ――ダンティス伯爵邸、屋敷内部。

 少年時代のルキフェル(俺)は勢力図の変化を近代史で勉強中だった。その日も家庭教師が付きっきりで夕方まで学習していたはずだ。歴史の授業を受けるも、俺は自分の未来を悲観していたが。なぜなら、がいたから。



 俺は貴族は貴族でも純粋な血を継いではいない。平民の愛人との間にできた、いわゆる妾の子、というやつだ。それでも唯一のこどもで一応嫡男として育っていた頃はよかった。わがままを言って従者を付き合わせることも、自分の優秀さをアピールすれば簡単に褒めてもらうことだってできた。両親には甘やかされて育っていたが、事態は正当なる後継者ができたせいで逆転した。

「エリオはかわいいわねぇ、あら、いたの。みすぼらしいから姿はみせないでって言っておいたのに。あっちへ行きましょう……ほーら、いい子でちゅね」

(お前が別邸との通路に立ってるのが悪いんだろ。なーにがでちゅね、だ)



 大手を振って屋敷を闊歩する正妻により、第二夫人は居場所がなかった。衣食住があっていい暮らしができて母さんは十分よと言っていたが俺は不満だった。父は母も愛していると言っていたが、あの正妻が妊娠してからはあっちに付きっきりだった。

 おれは父と正妻への不満をよく母にぶつけていた。母さんは困ったような顔をするばかりで、おれは相手にもされていないようで、余計にイライラとしていた。多感な思春期なんてそんなものだろう。



 その頃の俺は平民の暮らしぶりも、戦時下の過ごし方も、知らなかったのだから。



「あなたはお兄ちゃんになるのよ。将来はあの子、名前はええと……なんだったかしら? ……あの子を支えてあげてね」

 とぼけた様子でごまかした母さんはおれに約束よと指を出す。

 俺は指には目もくれずに反論した。

「母上は俺が大事じゃないんですか!?」

「もちろん愛してるわ。わたしのかわいいルキフェル」



 抱きしめられたぬくもりに機嫌があるなんて知らなかった。

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戦時下の体験ですっかりやさぐれた思春期青年ですが獣性をもったかわいくない乳幼児(弟)の子育てに奮闘してます 月岡夜宵 @mofu-huwa

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