第6話 俺は関係無いだろ!
『ちょっと待ってくれ。君は僕の話を聞いて何も思わないのか?』
タケルさんが俺を嗜めるというか、説得しようとするけど。
俺は
「怖い話だけど、俺は関係無いだろ!」
思い切り、叫んだ。
確かに人間を食い物にする化け物がこの世界に入り込んでるのは怖いさ。
餌にされるなんて冗談じゃ無いと思う。
だけどさ。
この世界では、人間が人間を餌食にしてんじゃん!
旦那から搾取するクソ女。
女から搾取するクソ男。
部下から搾取するクソ上司。
子供から搾取するクソ親。
……ザラだろ。そんなの。
なのに何で、そのナラッカだけは許さず倒さなきゃいけないんだよ。
しかも、命を賭けて。
冗談じゃない!
「俺は無関係だ! 知るか!」
「……お客さん、出て行ってくれますか?」
するとだ。
コンビニ店員さんが苦々しい顔で俺に言って来たんだ。
……あまりの理不尽で、叫んでしまったからだな。
言われ気づいたよ。
ゴメンナサイ。
とりあえず。
俺は自分の仕事の証拠を揃えたので、依頼人に連絡を入れて引き渡しの約束を取り付けた。
俺の仕事は探偵で、俺は浮気調査の達人。
これでご飯を食べてるんだから、しっかりやるさ。
で、その作業をしている間。
ずっとタケルさんが俺に語り掛けて来た。
……泣き落としでも狙ってんのかな。
それはこういう話だった。
タケルさんが倒そうとしていたあのごちゃまぜ怪人。
名前をアスモスといって、恋愛関係の手練手管に長けてるそうだ。
で、子持ちの人妻を誘惑して……
家庭を壊すことを繰り返していたらしい。
で、家庭を壊した後に、寝取った人妻のプシュケーを喰らい、死なせて。
その後遺書を偽造して、旦那や子供に対する呪いの言葉を書き連ね、旦那や子供に苦しみを与える。
……そんなことを繰り返していたそうだ。
酷い奴だな。
それで悪名や慰謝料で社会生活を営めなくなったら、外見を変えてまた別の人間に成り代わるのか。
人間に変身できるんだから、それくらいやれるだろうし。
そう、タケルさんの話を聞いて思った。
でも、クズや外道なんてそいつだけじゃないんだ。
だからといって、化け物と戦うなんて御免だよ。
で、そのまま俺は翌日の昼に。
指定の喫茶店で依頼人と出会った。
「……そうですか」
40代のスクエア眼鏡の紳士……この仕事の依頼人は落ち着き払っていた。
……浮気調査ではさ。
依頼人は俺の提出した結果で、泣いたり、怒ったり。
色々な反応を見せるんだけど。
今回の依頼人は……
笑っていた。
ああ、メチャクチャ怒って、嫁を腹の底から憎悪してんだな……
そのくらいは俺でもわかる。
で、つい
「これからどうするんでしょうか?」
そう、訊いてしまったんだ。
依頼人は笑顔でこう言ったよ。
「あのクズとは離婚します。最大限の慰謝料も取りますし、財産分与も可能な限り少なくなるように努力します。親権はこちらに来るように、子供たちにも言い含めます。向こうに親権が行きそうになったら、死ぬ気で抵抗しろと。クズの子になったら、お前たちもクズ扱いすると」
……ゾッとした。
あの不倫で、この人は怪物になってしまったんだな。
それが、理解できたから。
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