第2話 なんだいこりゃ?

(はーい、証拠ゲットー)


 心の中で呟きつつ、俺はデジタルカメラのシャッターボタンを押した。


 バレないとでも思ってんのかね。

 ホント、クズだわ。


 まともなヤツより、イカレたヤツの方が多いんじゃ無いのかね。


 夕方のホテル街。

 不倫カップルがラブホ前でキスしてて。

 それを振る舞いから事前察知した俺はシャッターを切った。


 そうして決定的瞬間の証拠写真をゲット。


 ……拳法やってた影響かな。

 なんとなく分かるんだよね。

 決断をする気配っていうか……そういうの。


 それが今、こうして生きてるのがなんとも。

 俺は浮気調査のために、拳法やったんじゃ無いんだけどな。


 ……しかし。

 あの40近いクズ女。反吐が出る。


 通ってるスポーツジムのインストラクターと浮気かよ。

 毎日忙しく働いているエリートサラリーマンの旦那が居るのにさ。


 旦那さんの話を思い出すと怒りが込み上げる。

 旦那さん、忙しいのに休みになったら家族を遊びに連れて行くことを習慣にしてたのに。

 あるとき、急に妻が欠席するようになった。

 そして。

 着飾るようになり、メイクも念入りになる。


 ……それで。

 いくらなんでも変だから、浮気があれば確実に分かるという評判の俺の事務所に依頼が来た。


 ……旦那さんの心境を考えるともう、地獄に堕ちろとしか。


 クズ女の浮気相手のインストラクターを見る。


 筋肉質高身長の、褐色ボディの、金髪イケメンだ。

 服装もチャラついてる。


 真面目一色の旦那さんと比較したら、全然違う男。


 ……ちょっと若くて、ガタイが良くて、ツラが良くて、自分に対して優しければ。

 10年以上連れ添った相手を即裏切る。

 見下げ果てたクズ。死ね。


 心で毒づきながら、あとはこいつらがホテルインする現場と、出て来るところを撮れば一通り揃うな。

 これまでの獲得物を合わせればさ。


 そう、物陰に隠れつつ考えた。



 ……今、この場には誰も居ない。


 俺と、あの不倫カップル以外は。

 俺は思考を打ち切り、あとは修行僧の心境で心を無にして立っていた。

 ムカムカを押さえ込んで、だ。



 そのときだった。


 リーン、という音がしたんだ。


 鈴の音。

 なんだか……


 ものすごく、澄んだ音に思えた。


 その瞬間


「グアアアア!」


 ジムインストラクターが。

 身を捩って、突如激しく苦しみだし


 いきなり、化け物になったんだ。

 バリっと人間の皮を突き破って、中身が飛び出したみたいに。


 そこに出現したのは……


 牛に似た顔と、羊みたいに捩じれた角。

 蛇の尻尾と鳥の翼を背中に備えた、灰色の怪人。


 あまりのことに、俺は硬直した。


 ……一体……なんだよ?


 なんだいこりゃ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る