望まぬ力を与えられ~悪魔と戦う聖戦士~

XX

第1章:無理矢理ヒーローにさせられた!

第1話 向いてる仕事とやりたい仕事が違う場合がある

「また浮気調査かよぅ」


 俺は仕事道具のデジタルカメラを鞄に押し込んで、仕事に出る用意を整えた。

 俺の仕事の内容に合わせて、なるべく小型で、なおかつ解像度が高いやつ。

 そのせめぎ合いがポイントだ。


「あまり文句を言わないでよ。御幸みゆき君に任せておけば、どんな巧妙な不倫も速攻バレるって業界でも有名なんだよ?」


 助手の市子いちこが俺にそんなことを言ってくれる。

 励ましのつもりか?


 俺は私立探偵をしている28才の男で、名前は瀬名せな御幸みゆき


 俺は子供のころから探偵もののハナシの主人公に憧れててさ。

 子供のときから、立派な私立探偵になるための努力を続けて来たんだ。


 ホームズとか、金田一とか、明智とかさ。


 バリツの代わりに拳法を習ったり。

 推理小説を色々乱読して、推理力を高めたり。

 法律を勉強したりさ。


 ……アホか? って?

 しょうがないだろ。憧れたんだ。


 さすがに成長過程で「実際の探偵は殺人事件の解決をしたりしない」って知りはしたけど。

 それに準じる何かはあるだろ。


 そう信じて、頑張ったんだけど……


 実際は、浮気調査とか、結婚前調査とか。

 そんな夢の無いのばっかりなんだよな。


 特に俺はどういうわけか、浮気調査でミスったことが1度もなくて。

 元々、業界での浮気調査という仕事の成功率は8割を超えるんだけど、俺の場合は現状、100%なんだよね。

 相性がいいのか、運がいいのか。


 そこに不倫があった場合、逃がしたことが1回も無い。


 だから大手に頼むより料金が安くて、仕事の精度が大手並みかそれ以上ってことで。

 そればっかり来るんだよ。


 配偶者が変だと思ったら、瀬名探偵事務所に駆け込めってさ。


 おかげで仕事は沢山あって、収入面で文句は無いけど……


 この仕事は、人間が嫌いになる。

 世の中、クズばっかりじゃねえか。


 男も、女も。


 市子が居なければ、多分そこら辺が決定的になっていたんだろうなと思う。

 幼馴染で、今はこの事務所で俺の助手をしてくれてる俺と同い年の女……藍沢あいざわ市子いちこ


 ショートボブの、スラリとした女。

 まぁ、なんというか……結構美人だと思う。

 実際、学生時代はモテてたし。


 でも何故か俺と一緒にこの道に来てくれて、俺を支えてくれてるんだよな。


 ……ちなみに恋人では無い。

 間違いなく大事な人間ではあるけどな。


 では仕事に行ってくる。

 そう、パソコンで事務仕事をしている市子に言う前に。


 俺は姿見で自分の姿を確認した。


 俺の仕事は目立つ格好をしていると不味いから。

 普通の格好なんだけど……


 ごく普通の、チェックの地味な色のシャツと、普通のスラックス。

 顔つきは多分普通。自己評価だけどな。

 ただ、子供っぽいと言われたことがある。


 で……


 俺は帽子を被った。


 一応、変装目的で複数用意しているけど。

 これはお気に入り。


 探偵っぽいシルクハット。

 色は茶色。


 やっぱ、探偵と言えばこれだろ。


「じゃあ、行ってくる」


「行ってらっしゃい。気を付けてね」


 そう言葉を交わし、俺は事務所を出ていった。

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