第2話

「な、なぁ、花蓮……」


「なぁに?」


「さすがにこの体勢で登校するのはちょっと……」


 花蓮はがっつり俺の腕に体と立派な胸をぴったりくっつけて、通学路を歩んでいる。


「嫌なの?」


「い、嫌っていうか……周りに見られてて、恥ずかしいっていうか……」


「別に私は恥ずかしくなんてないよ? だって、私、すっごく、すっごく、すっごく健二くんのこと好きなんだから。ずっと、ずっと、ずっと、健二くんとはこういう風に登校したいって考えていたんだよ?」


 言葉は確かに嬉しい。だけど、今朝から花蓮から感じる、この異様な雰囲気に薄寒さを覚えている俺だった。

とはいえ、今こうして愛を囁き、がっつりくっついてくれているのは、正真正銘の美少女・高梨 花蓮であるというのは紛れもない事実。


「ま、まぁ、良いけど……」


「やった♩ ありがと健二くん! 今夜も昨日みたいにいっぱいしようね♡」


「今夜も、良いの!?」


「うんっ! しかもね……私、今日から安全日だよ♩ なんか安全日?って、君をナマで感じられるんだよね?」


 安全日ということは……ぐおぉぉぉ……! 今から今夜が楽しみで仕方のない俺である。


そうして俺は周りの好奇の視線を一心に浴びつつ、通学路を歩んで行き、教室にたどり着くと、好奇の視線はより一層強まった。

なにせ、みんなのアイドル・高梨 花蓮さんと、モブ男子の俺ががっつり腕を組んで登校してきたのだから。


 そして早速、いつも花蓮と一緒にいる女子が「何事か?」と声をかけてきたので、


「実は昨日から私、健二くんの彼女になったの! これからはずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、健二くんと一緒にいるんだから。もう2度と離さないんだから」


 とはいえ、俺と花蓮の席は割と遠い。

さすがの花蓮も、くっ付いているのは難しいと思ったのか、大人しく俺から離れて自分の席につき、先生の話を聞いたり授業を受けたりしている。だけどーー


「さっきの授業を受けてた時の健二くんの横顔、すっごく、すっごく、すっごく、すっごく、すっごく格好よかったよ!」


「え? ただ普通に受けてただけなんだけど……」


「そんなことないよ! 真剣に授業聞いてる健二くん、ほんとに、ほんとに、ほんとにかっこいいって思ったんだから♡」


 授業と授業の合間には必ず俺の席までやってきて、腕に抱きついて、立派な胸を押し当てて、俺に甘い言葉を囁いてくる。


 それはお昼の時も同様というか、酷いというか……


「はい、健二くん、あーん♩」


 いくら仲良しとはいえ、学食で彼女が彼氏へあーんをしている場面などみたこともない。


「い、良いよ、自分で食べるよ……」


「遠慮しないで♩ はい、あーん♩」


「いやだから……!」


 さすがに恥ずかしさが優った俺は、ちょっと強めの語気を放った。


 途端、それまで朗らかだった花蓮から、氷のように冷たい雰囲気が漂ってきたような……。


「なんで嫌がるの? 私たち、恋人同士だよね? 彼女が、大好きな彼氏へあーんをするのって当たり前のことだよね? なのになんで嫌がるの? なんで、なんで、なんで、なんで、なんで!? ねぇ、なんで!!??」


 周いが驚いてしまうほどの花蓮の声量だった。

さすがにこのままはよろしくない。


「ご、ごめん! いや、花蓮、さっきから俺に食べさせてばっかで、自分のぶん食べてないなぁって! それじゃ悪いなぁって!」


「わぁ! 健二くん、私の心配してくれてたんだ! なんか、変なこと言っちゃってごめんね?」


 花蓮はとても嬉しそうに笑ってくれた。上手く誤魔化せたようだ、やれやれ……


「じゃあ……今度は健二くんが私に食べさせて?」


 そう来ますか、花蓮さん……とはいえ、ここで拒否ると、また堂々巡りになりそうなので……


「は、はい、あーん……」


「あーん♩ んんっー! おいひぃ……!」


 まぁ俺が食べさえただけで、こんなにも幸せそうな顔をしてくれるんだから良いかと思う。

それにこうやってものを食べさせていると、昨晩俺のアレを美味しそうに頬張っていた花蓮を思い出して、すっごくムラムラしたり……なんて俺は幸せ者なんだろうと思った。


 この時までは……

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