第30話「なにか食べられそうか」


スーツを着ていない宗一さんを初めて見た。

部屋着らしい緩い服装に、おろされた前髪。


ただならぬ色気を感じ、キャストの子たちが見たら卒倒してしまうんじゃないだろうかと思った。







「す、みません……?」


状況が全然分からなかったがとりあえず彼の身体に巻き付けられた自らの両腕を外した。


ほんとうに、どうしてこうなった。




身を置く場所がなくて、とりあえず寝ていたらしいデカいベッドの上をおりて床に正座した。

つむじに突き刺さる視線が痛すぎる。


か、顔が上げられない。


どうしてこんなことになっているのか。

俺は寝る前何をしていたんだろうか。


えーと、扉開けたら誰かがいて


焦って腕を振り上げたら宗一さんで。


安心して身体の力が抜けたんだ。


なんでそんなことになっていたんだっけ。

えーーー、と






「心ちゃんと平野さん!!」

突然顔を跳ね上げ大声を出した俺を、宗一さんは無表情で眺めていた。


「__は、どうなりましたか?」

「平野と娘は病院だ。どっちも問題ない」


聞いた瞬間、肺の中の空気が全部出た。

「よかった……」

「問題あったのはお前だ」


あまり表情の変わらないイメージの宗一さんに真正面から睨まれている。ヒッ、と小さく声が出た。


「ゾーン手前だ。病院でどうにかなる症状じゃなかった」


「あ……」


「あそこまで酷使して、後どうする気だった」


怒りを多量に含んだ視線が身体にのしかかり、起き上がれない。地面に食い込みそう。なんかもう土下座するしかなかった。


「大変ご迷惑をおかけしました……」






しばらく俺の謝罪と土下座を冷めた目で見ていた彼は、小さくため息をついてベッドから降りた。


「腹は」


「はい?」


「なにか食べられそうか」







俺に聞いているはずなのに、返事を聞く様子もなく寝室を出ていく宗一さんに立ちつくすならぬ、座りつくしていた。

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