第26話
こうして単独潜入することとなった俺は、現在コンビニに居る。
涼介さんに送ってもらった画像を頭に叩き込む。中でスマホを見る隙があるとも限らない。
見た感じ、怪しいのは……二階か?物流倉庫らしい、一階は広い空間が大部分を占めている。二階には細かい部屋がいくつかあった。
コンビニを出て、前を歩くサラリーマンらしき男性の後ろにつく。倉庫の周りに再び近づくと出入り口にはやはり見張りらしき男がふたり立っていた。
(ここは難しいか)
もうひとつの裏口にまわる。
さっきより更に人出が少なく、紛れる人もいなかった。
差し掛かった出入り口には、男がひとり立っている。
ここで引き返すのは不審に思われる。そのまま入口の前を横切ると見張りらしい男の視線が一瞬向いたが、過ぎる頃には視線が外れた。
(......そんなに警戒強いタイプじゃない)
見張りがひとりなのもいい。
入口を見張れる場所に隠れ、機会を伺う。こっちに気付いている様子は全く無い。
そっとスマホ確認する。時刻は22時を少し過ぎた頃。
(時間はまだある。機会はあるはずだ)
時折スマホで連絡を確認しながら、一時間ほど経った頃だった。
男が数回足踏みをしてから、そそくさと建物の中に入っていくのを見た。
(まあそうだよな)
この気温の中。鉄の膀胱が無ければ数時間見張りを続けることは難しいだろう。
トイレに走っただろう、男性の後を追うように中に入ることに成功した。
静かに廊下を進みながら辺りを警戒する。監視カメラの類が無いことを確認して、安心した。
二階に上がるために階段に向かいながら、声がすれば至るところに放置されている段ボールに身を隠した。
通り過ぎたことを確認してから再び階段へ向かう。
ようやくたどり着いたそこは障害物なんて無い細い階段。
誰か通りかかれば一発でバレる。
大きく深呼吸をしてから全身の皮膚に集中した。
(あまり、意識的にはやったことないんだけど)
ゾーンに入りかけたとき、感覚が冴えすぎて空気の流れさえ精密に読み取れることがある。それは人が話す空気の振動だったり、動くときの空気の揺れだったり。
感覚を、研ぎ澄ますほどピリピリを皮膚に痛みを感じ、心臓がドクドクと大きく鼓動する。上がっていく呼吸に、ゾーン前の状態に近づいていくことを感じる。
頭が痛んで額から汗が流れ始めたとき、空気の流れが肌に触れた。
上の階。階段の近くにふたりいる。
まだ駄目だ。
まだ…、まだ…。
下に降りてこないか、しばらく様子をうかがったが遠ざかっていく気配に急いで階段を昇りきった。時刻は23時過ぎ。思ったより時間を食ってしまった。
急いで廊下を進み部屋の様子を伺う。空気の流れで、大体中にいる人間の様子は分かる。
一階の人も多さと比べると、二階はあまり人気がなかった。
おかげで、人の気配がある部屋を見つけるのは早かった。
向かいの、誰もいない部屋に隠れながらもう一度感覚を尖らせる。
もっと、もっと深く。深い海に沈むように。
さっきまであった、ピリピリとした皮膚の痛みを感じない。なにも感じなくなった。
地に足をついているかもわからない。浮遊感。ぐらぐら揺れて気持ち悪い。でもそんなの関係ない。
意識は向かいの部屋だけに投げる。
小さな小さな呼吸の振動を感じた。
(……いた)
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