第24話「心ちゃんが誘拐?」


「心ちゃんが誘拐?」


電話の後、10分前後で姿を見せたのは涼介さんと憔悴した平野さんだった。


「ああ、平野さんが家出た直後やられたらしい。中にいた保育士は気絶させられてた」


保育士?奥さんじゃないのか?

顔に出ていたのか涼介さんは亡くなってる、とだけ答えた。


「相手からの要望は、平野さんがひとりで指定した場所に来ること」

「絶対罠じゃないですか」

「ああ、そんでもって時間は24時」


ARの閉店時間は25時だ。


「店は休みますか?」

「そうしたいが、今日は宗さんのデカい商談がここである」

ここで平野さんが無言で立ち上がり店の出入り口の方へ向かった。

「ああ待て平野さん!いま行ったってどうにもなんねーだろ!」

「それでも、こんなところでじっとしているのは無理だ…っ、」

引き止めようとした涼介さんの腕は振り払われた。でも平野さんからは焦り以外にも迷いがあるように感じた。


「どちらにしろ乗り込むにしたって24時。それまでは他にできる準備をするしか無い」

とりあえず、亜樹と平野さんは一旦店に出ろ。


「俺の方で人手と建物内部の情報探ってくるから。店は宗さんに頑張ってもらって23時までに蹴りつけてもらう」

それでいいな?


問われた平野さんは返事をできていなかった。


平野さんの、身を覆うほどの心痛を全身で感じた。

亡くなった奥さん。忘れ形見の心ちゃん。

大事に、大事に育ててきたんだろう。見せてもらった写真にうつる女の子は幸せそうに笑っていた。

この親子に、ふたりに、俺にできることは無いのだろうか。店に立つことしかできない?

なにかないのか?


(建物の内部状況探ってくるから)

さっきの涼介さんの言葉が脳裏をかすめた。








「__あの、待ってください」

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