第23話


飲食業界において、いわゆる書き入れ時の師走。

歌舞伎町全体はいつも以上に騒がしく賑わっている。

居酒屋の呼び込みにも普段以上に力が入っている気がする。


クリスマス前の週末だからか、人の多さも普段以上。

人の波を抜けてようやくARにたどり着いた。


ARの鍵は平野さんと涼介さん、あと宗一さんが所有しているらしい。

だから、俺が出勤するときにはいつも誰かしら先に中にいる。


でもこの日は違った。


いつものようにドアノブを回しても開かない扉。

スマホの画面を確認するが、別にいつもより早い時間というわけでもない。


(? 遅刻かな)


涼介さんなら納得だけど、平野さんなら珍しいな。

そんなことを考えていたとき、ちょうどスマホが着信を知らせた。

相手は涼介さん。やっぱ寝坊かな、なんて考えながら出ると焦った彼の声が聞こえた。


「だ__落ちつ_ってい_行ったって_に_なんねーだろ。ちょっ、あっ、亜樹か?」


断片的に声が聞こえたあと、俺の名前が呼ばれた。


「はい、そうです」

「いまもう店?」

「はい」

「ちょっと待ってろ」


はい、と返事を聞く前に切られた通話に呆然とする。


涼介さんの誰かを諌める様な言葉。

かすかに聞こえた声は平野さんだった。


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