第22話
12月。
頭上で鳴るアラームを切るため布団から手を出す。
瞬間ひんやりと冷え切った空気が中に入り込み身が震えた。
「さっむ」
手探りで探し当てたスマホを操作しながらのそりと起き上が
ろうとして失敗した。
寒すぎて掛け布団を手放せない。
仕方無しに布団を体に巻き付けながら引きずって電気をつけにいく。
明るくなった部屋は相も変わらず殺風景。
だが新顔もいる。
膝ほどの高さしかないファンヒーターを先日某大型通販サイトで購入した。
寒さに勝てなかった。
エアコンのないこの部屋での死にかけるのでこれくらいの出費は許されたい。
エアコンのないこの部屋で夏は耐えきったのに冬を我慢ができないのは、やはり身体が薄すぎるからだろうか。
暖かい空気を吐き出す文明の利器の前に丸くなりながら皮しか乗らない腹を撫でる。
「手っ取り早く脂肪つける方法無いかな」
メイさん紫乃さん辺りに聞かれたら全力でブーイングを食らいそうで店では口にできないなと思う。
寒いのでさっさと準備に取り掛かる。
苦行とも言える極寒シャワーを高速で終わらせ、ヒーターの前に再び舞い戻る。ドライヤーで髪を乾かし着替えて家を出た。
街に近づくにつれすれ違う人も増えていく。この間まで薄手のコートの人が多かった気がするのに今では分厚い上着にマフラーを足している。寒くなって、ようやく冬を感じている自分がいる。ARで働き始めてもう三ヶ月ほど経とうとしていた。忙しさもあり時間を早く感じる。あと、居心地が良すぎるのがいけない。
(そんなに長居できないんだから)
ここには、居れてもあと半年くらいか。
ひとつの場所にとどまるのは、だいたい一年にしている。
クリスマスに合わせキラキラなんだかギラギラなんだかしている電飾を横目に速歩で進む。
ふと、昔のクリスマスを思い出した。
幼少期過ごした島は子どもが少なすぎて、しかも船に乗らなければ学校に通えないような辺鄙な場所だった。住民もじいさんばあさんばかりでクリスマスなんて無縁の町。
クリスマスだからといって町にイルミネーションが飾られることなんてなかった。
しかし母は取ってきた貝で小さなクリスマスツリーを作り、イブにはケーキを焼いてくれた。白い貝で積み上げられた小さなツリーは可愛かった気がする。
当時はクリスマスという概念を認識してなかったから、ケーキ美味しいなくらいしか思っていなかったが。
あそこではクリスマスをしている家なんて、他に無かったんじゃないだろうか。
ということは、やはり母はあの島の出身では無いか、島を出たことがあるんだろうな。
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