第15話


週半ば。ARのバイトは休みの日。

今日も今日とて、いつも通り真っ暗な部屋で目を覚ます。

のっそりと起き上がり手を彷徨わせる発見したスマホでアラームを切る。

表示されている時刻は6時。

夕方ではなく、朝の。


珍しく朝に起きたのには理由があった。


簡単に身支度を整え新宿駅まで速歩きで向かう。

大江戸線で大門まで行き、そこからは徒歩。10分かからず竹芝客船ターミナルに着いた。


予約しておいたジェット船に乗り込み2時間弱。

東京とはあまり思えない、島に着いた。


前回来たのは何年前だったかなぁ、。

朧げな記憶を辿りながらダイビングショップに入る。

ライセンスはあるので機材のレンタルと船を出す手配がしたかった。


受付にいる焼けた肌のおじさんに声をかける。


「機材のレンタルと船を出して欲しいんですが、できますか?」

「それならファンダイビングになるけどいいかい?」

「大丈夫です」

「何ダイブいく? 今の時間からなら3までいけるけど」

「じゃあ、3で」

なるべく多く、長く潜りたい。


申込書を受け取り項目を埋めていく。緊急連絡先のところで手が止まり、少し考えてからARの電話番号と平野さんの名前を書かせてもらった。


ザッと内容を確認され機材の置かれたエリアに案内される。


「ブーツとスーツ、選んで持ってきてよ」


頷きながらブーツとウェットスーツを物色する。結構良いブランドが揃っていてありがたい。

10月を少し過ぎたこの時期は、本来ならそろそろ潜るのを躊躇うが今年はまだわりと気温が高い。


「良い時に来たよ、お兄さん。最近天気良かったし今日は風も弱い。海の中も穏やかだと思うよ」


「透明度高そうですね、楽しみです」


「そういえば、さっきデータ入力してて気付いたんだけど、お兄さん前にもうちに来てくれたことあったんだねえ」


「......あ、そうでしたか? 色んな店行ってて気付かなかったな」


「はは、まーダイビングショップなんてどこも似たようなもんだしな」


さらっと流しつつ、しまったなと思う。

あまり店は被らないようにしてたんだけど、......。


平日ということもあり客は少なく、対応してくれたおじさんとすぐに出ることになった。


機材を車に載せるのを手伝い、出発して数分。

小型船がとめてある船着場に止まる。


出際良く船に荷物を運び込んだおじさんは船のエンジンをかけた。


「さーて、どの辺行こうかね」

「じゃあ、あんまり深くないとこでお願いします」

「ライセンスあるのに?」

「海底触るの、好きなんです」


ああ、なるほどねえ。

納得しながら舵をとっている船頭を横目で見ながら、潮風を浴びた。

少し肌寒いが、心地良い。


海の上は、360度どこにも人の姿なんて無くて。

視線の無いことに安心した。






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