第14話「ヤクザの息子なんだよ、あの人」


キャストを全員車に乗せ見送った後、そういえば。と思い出す。


「ソウイチサン? はもう帰られたんですか?」


一緒に店の掃除をしていた涼介さんに聞く。

ずっと店に出ていたのに、彼が退店するところは見ていなかった。

確か、彼と一緒に来た客は店をあとにしていたが......。


「あー、そういえば見てねえな。じゃあ今日こっち泊まんのかもな」


「こっち? 泊まる?」


「ここのビル、宗さんの持ち物でさ。空いてる階を自分ち①にしてんだ」


「......まるいち?」


それはつまり、まるに、があると?


「②どころか、俺でも把握してないくらいあるぞ。ホテルの部屋もいくつか買い取ってる」


俺の思考を読み取ったように涼介さんは話す。


「なんでそんなに部屋必要なんですか?」


「あー......、」


涼介さんはチラリとこちらを見てから、「まあいいか」と一人納得していた。


「どうせよく知られた話だからな」


なんのことだと、聞こうとして被せるように答えが返ってきた。


「ヤクザの息子なんだよ、あの人」


「......え゛」


「しかも組長の、孫」


「組長の、孫」


思っていた以上の大物が出てきてしまった。......というか、俺今ヤクザの下で働いてるの?辞めたいが?いますぐ。


「あ、でも宗さんはヤクザじゃねーから」


「親がヤクザな時点で似たようなもんでは」


「全然違うな、宗さんは一般人」

一応。


一応ってなんだ。最後に付け足された一言に、思わず眉間に皺がよる。


「まあそれでも、逆恨みやらなんやらで宗さんが狙われることは少なくなくてな。ちっさい頃から誘拐されかけてたらしいし」


「はあ......」


「更に加えるなら宗さんこの辺の店・土地をガンガン買い占めてってるから競合相手から狙われてる」


「死ぬほどお金持ちですねえ」


「金もだけど、宗さんの場合は後ろ盾と極太パイプによるとこが大きいかもな。金だけじゃこの辺は無理だ」


「へえ......」


「だから宗さんは敵が多い。ただでさえ組絡みで狙われてるのに仕事上でも敵が多い」


「難儀なことで」


「だからこの店も安全かと問われると、言い切れないところがある」


「......なんだって?」


「お前もそういうつもりで!警戒頼んだ、同僚!」


やー、勘の良い奴が来てくれて良かったー。


ケラケラ笑いながら肩を叩く男に殺意が湧いた。

こいつ、初めからそのつもりで俺を無理やり引き抜いたな......!?


「その時が来たら涼介さんを囮にして逃げますから」


「はー!?つっめたい奴!」


肩に回されいた腕にそのまま首を絞められた。普通にキマッてる。


「ほんとやめ」

てください。


そう続けようとしたが、言葉は発せなかった。


「涼介くん、亜樹くん?」


「ハッ!ヒラノサン......っ」


大袈裟にビクついた涼介さんは盾にするように俺を前に突き出す。あ、この野郎。


「手も動かしてくださいね?」


にこりと微笑む顔が怖い。


二人して首を上下にブンブン振って嵐が去るのを待った。


「平野さんって、何者ですか......?」


事務所に平野さんが戻るのを見届けてから、涼介さんに問いかける。

あの人、気配が普通じゃない。殺気が怖すぎて言葉が出てこなかった。

なにより、こんなに寄られるまで気付けなかった。俺が・・


「宗さんが、たまにここに泊まる理由だな」


「え?」


「めちゃくちゃ喧嘩が強い」


「え゛」


「俺が今まで会った人間の中でも、たぶん一番」

悪いこと言わねーから喧嘩は売らない方がいい。


神妙に言う涼介さんに顔が引きつる。




売るわけないだろ。






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