第12話
噂の【ソウイチサン】とは、わりとすぐ会うこととなった。
その日は、何故か出勤直後からキャストの女性達がそわそわしていた。
気になって聞いてみると、みんな口を揃えて『今日はソウイチサンが来るから』。
どうやら営業時間内に来るらしい。
「視察的なやつですか?」
「というか、接待とか商談にこの店使ってるよ」
今日はスパンコール眩しいミニドレスを着たメイが答える。
「で、私らで上手く盛り上げて商談をスムーズに進めるの」
「ああ、なるほど」
馴染みのキャストのいる店を接待に使う客がいる。
そういうのは、普段から定期的に通ってキャストの協力を得ているが、自分の店なら話は早い。
どんなひとかな、とまた想像の中でホスト顔のおとこが出来上がり頭を振った。
開店が近い。
とりあえず今は目の前の仕事に集中。
開店してからは時間が経つのが早い。
人手が足らないという話は本当らしく、かなり優先順位を細かく判断して仕事をこなさなければ一気に停滞する。
頭と身体のフル稼働はかなり疲労が強い。
開店前の出来事なんて、完全に忘れた頃にその人は来た。
店の空気が一瞬で変わったのが、肌で分かる。
さっきまで楽しそうに会話していた客もキャストも時が止まったように口が動かなくなった。
シンとした店内を悠然とその人は進む。
全員の視線、意識がいま、現れた存在に注がれる。
一瞬で理解した。
ああ、この人が【ソウイチサン】か。
濡れたカラスの羽のような色、というのはこういう色か。そう思わせる濡鳥色の艶やかな黒髪。あげた前髪の分け目から覗く顔面は真っ白で雪のような透明感がある。神経質そうな目や輪郭が余計に人離れした美しさを助長していた。
思わず目で追っていると視線が絡んで、
睨まれた、............ような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます