第4話


『今夜、お店に連れて行くね』


そう言って彼女が連れてきたのはよく喋る男だった。


「バーテン君は名前なんてーの?」


「アキです」


「俺涼介ね、アヤカちゃん何飲む?」


「ホワイト・レディでっ」


普段頼まない可愛い酒を注文してくるアヤカさん。

ガチだな......。


「と、マティーニで」


「かしこまりました」




酒を作りながら涼介と名乗った男を横目で見る。

明るい茶髪に甘い顔立ち。

面食いのアヤカさんのお眼鏡にかなうだけある。

それに加えて嫌味のないエスコートにコミュ力お化け。


黒服よりホストの方がしっくりくるな。


しばらくアヤカさんと談笑したのち仕事があると先に帰ったが、スマートに会計も済ませて出て行った。


最後まで、(モテそうだな)という印象。









「ど、どう思った?」


アヤカさんの期待のこもった視線と声色。


「カッコいい人ですね、気遣いも細やかで」


期待通りの答えを出す。


「そうなの!」


ここまでは。


「でもひとりに絞るタイプじゃ無いですよ、というか進行形で他に相手います」


「や、やっぱり......?」


「悪いこと言わないんであの人は辞めた方が良いかと......」


「うぅう」


机に突っ伏してしまったアヤカさんには言えないが、たぶん後ろ暗いところがある。

俺やアヤカさんと話しながら、意識が後方の扉に集中していた。

誰かに襲われる可能性があるということ。ということはまともな人生ではないわけで。

(普通の人間はあそこまで背後に意識を向けない)


それに、よく喋る人ではあったが深入りはさせず、最後までこちらに警戒心を持っていた。

裏社会の人間に多いタイプ。


というかヤクザとかなんじゃないだろうか?


関わらない方が良いだろう。








「もっと良い人いますよ」


「どこに行けば会えるのよ〜!」


結局アヤカさんはその日も閉店間際までいた。

浴びるほど酒を飲んだにも関わらずちゃんと帰れるのだから、流石である。


ああ見えて昼の堅い仕事についている。

夜の男は辞めた方が良いと思うのだが、彼女の好みはとことん夜らしい。


まあ、何はともあれこれでこの件も終わりだ。

涼介という男とは、もう会うこともないだろう。


そう思っていた。




......翌週、普通に客として来店するまで。


「お、いるいる。この間来た時居なかったからさ」


「......こんばんは、今日はアヤカさんと一緒じゃないんですね」


「ちょっと飲みたくなってな、ジントニックで」


この間来た時?

出勤していなかった平日にも来ていたということか?

この口ぶりだと目当てが俺だった、というようにも聞こえる。

ライムを切りながら相手の真意を探っていると目が合って笑いかけられた。


......モテる男は愛嬌があるな。



出来上がったジントニックを出しながら「俺に何か用事でしたか?」と探りを入れる。


「もうちょい話してみたくてさ、この間はアヤカちゃんいたし」


「......俺とですか?ありがとうございます。ここは週末だけなんです」


「へえ、他にも掛け持ちしてんの?」


「いえ、ここだけです」


ふーん


グラスを煽りながら何か思考しているような反応。


「他にバイト探してない?」


「いえ、特には......」


そっかー


言いながらスマホを取り出し操作し始める。

訝しんでいると「連絡先交換しない?」と言われた。


「......良いですよ、LIMEでいいですか?」


「おっけー」


嫌だなと思ったが、夜の店で連絡先交換を渋ってちゃ空気が読めないやつだと思われる。


それにSNSであれば、最悪ブロックかアカウントを消せば良い。

リスクも少ない。


「俺そこのARって店で働いてんだ。なんかあったら連絡して」






............なんかってなんだよ。














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