第3話


その後、なんだかんだアヤカさんは閉店ギリギリの2時まで居座った。

俺はアヤカさんの相手をしつつ他のお客さんもさばき、最後までわりと忙しい日となった。




「いや〜、二人ともお疲れ様! じゃあ俺裏で締め作業してるから何かあったら声かけて」


ど深夜だというのにあまり疲れを見せない店長はにこにこしながら事務室に戻っていった。売上が良かったんだろうな。


そんな店長を横目に俺と新田さんは掃除と在庫確認に取り掛かる。


「あ、ここちょっと剥げてますね」


掃除をしていて、椅子の端の塗装が少し剥げているのを見つけた。覗き込んだ新田も確認したようだ。


「店長に言っときますね」


「いや、いいよ。俺が言っとく」


そう言うやいなや事務室に向かう新田。疲れ目で尻尾が見える。

分かりやすいな、と同時に今後店長との関わり方を考えなければ。下手すると職を失う危険が出てきた。







掃除を終え店を出る頃は3時が近い。

場所が場所なので、道端には酒に潰れたホストキャバ嬢サラリーマン地雷ホームレスもどき未成年、累々が転がっている。


キリが無いのでいちいち声をかけたりもしない。


出勤時と同様、速足で自宅まで直行する。疲れが出て行きよりかは時間もかかるがそれでも30分ちょい。ボロいアパートだが、家賃格安で繁華街から歩いて帰れる距離なところがありがたい。


簡単にシャワーを浴びて途中コンビニで買ったものを軽くつまんで布団に潜る。

普通のアパートであれば早朝のシャワーも苦情が来る可能性もあるが、ここは100パー大丈夫。


何故なら住人が俺ともうひとり(確か70近いじーさん)しかいないから。

さらにいうなら部屋の位置も一番遠い。

角部屋と角部屋だ。

お互いの生活音なんてほぼ聞こえない。


一年限定で、取り壊し予定のアパートに引っ越してきて良かった。

訳あって、アパートやマンションでも近くの部屋に人が住んでるのはきつい。

たまに感情に当てられて・・・・・しまう。


つくづくセンチネルってのは生き難い。

触覚が過敏になり過ぎている俺は、人の感情を肌で感じてしまう。

好意はまだいいが、嫉妬はベタついて肌にまとわりつくような感じがするし、悪意はヒリついて痛みが伴うこともある。


感覚過敏に加えて、さらにきついのが身体にかかる負担。


絶えず多くの情報を受け過ぎるせいで、しょっちゅうパンクする。ゾーンと言うらしい。


特に俺は人の感情を読み取りやすいので対人ストレスが大きく、今の仕事も週三が限界。

店長に出勤数を増やせないかと言われても、申し訳ないが難しい。


接客業以外の方が負担が少ないかと、試してみたこともあるが賃金が安い傾向にあり、出勤数を増やさなければならない。正直どっちもどっちだ。


「だから母さんも、あの何にもないとこに住んでたのかな」


一人きりの部屋に独り言が響いた。

俺と同じ、センチネルだった母と共に過ごした場所を思い出す。

あの、海しかない町を。




眠りに落ちていく。


耳元で、波の音がした。







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