❄5

 しんどくなるほど吹雪くクリスマスイブの公園。

 いちゃついたカップルの姿すらない広場を突っ切っていく。


 オレとそしてユキの地元、杜の宮原市。


 剋分町こくふんちょうのとある寂れたネカフェで、料金を払えず追い出されたユキを客の一人が見たのが最後——ユキの足取りはそこで途絶えている。


 住む家もない。ネカフェにも泊まれない。

 誰にも頼れないヤツが行ける場所は限られてる。


 ネカフェ近くにある駅、川の橋の下、公園を一日中歩き回って——。

 オレは、ようやく見つけた。


 誰もいない吹きさらしのベンチ。

 静かに目を閉じて、だんだんと雪に埋もれていく姿は本物の白雪姫だなって思った。


 青白い唇から、わずかに漏れる白い吐息。

 息は、している。


 幼さがまだどことなく残る顔立ち。

 少し傷んだ黒髪に、相変わらずの白肌。

 身長が少し伸びた事以外は昔とちっとも変わらない。


 今すぐ抱きしめてやりたい。

 奥から込み上げる欲望を抑えて、たずねる。


「なあ、生きてる?」


 雪のついた長いまつ毛がゆっくり開いて、中の瞳がオレをしっかりと捕らえる。

 あの日と同じ、吸い込まれそうな視線をオレに送って。


「アンタ、イシカワ ユキだろ」


「僕の名前、どうして……」


 決まってんだろ。

 オレはずっと、お前の足あとを追ってきたんだからさ。


 あの日置き忘れたままの、オレの下心のために。


「ユキのサンタだから」

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白雪の足あと トヨタ理 @toyo_osm12

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