❄4
「あぁ、フタナリちゃん。店やめたよ」
龍の刺青を頬に入れたソープのボーイは「カラダ壊したから地元帰るって言ったっけなぁ」と、どうでもよさそうに言ってタバコをふかした。
オレは、ユキを忘れられなかった。
小六でユキを探す事を諦めても。
中学でサッカーに命かけても。
高校で初カノとセックスしても。
心に染みついたオレの中のユキは、なかなか消えてくれやしなかった。
だから高校を卒業して、オレはサンタクロースを目指しながらユキ探しの旅に出る事にした。
日本で毎年十二月にやってる「日本民間サンタクロース試験」。
十年ぐらい前から流通し始めた「空飛ぶクルマ」の免許を持ってれば誰でも受けられる、日本でただ一つのサンタクロース認定試験だ。これに合格すれば、本物の空飛ぶソリに乗ってサンタクロースとして毎年子供達にプレゼントを届ける仕事がもらえる。
偶然見たネットニュースの特集に「これだ」と思った。
けど、その試験は誰でも受かるようなカンタンな試験じゃない。
体力、学科、飛行ソリの運転技能。
全ての試験を七割以上の点数でパスして、かつ最終面接で受からなきゃいけない。何年挑戦しても受からないヤツもいるぐらいで、勉強嫌いで成績が死ぬ程悪い今のオレじゃ合格はムリだと当時の先公にも言われた。
だから高校はずっとバイトで金貯めて合宿で車の免許取得。
卒業して旅の合間に日雇いバイトをしながら、情報収集とサンタの勉強。
母ちゃん、父ちゃん、妹の大反対を無理やり押し切ってそんな生活を続けていたら、あっという間にオレは十九歳。今は情報を頼りに東京の繁華街まで来てたってワケだ。
自分でもキモいってのは自覚してる。
実際オレは、この旅の中でユキのいろいろを知っちまった。
親や親戚の
援交に溺れて高校を中退した事。
その後に施設を出て、
ユキの歩いた道は、オレの想像の何倍も絶望の連続だった。
いろんな奴に出会う中でユキをただのクズみたいに言う人間も少なくはなかった。
世間をまるで知らないガキにはエグ過ぎる生き様に、何度吐いたかもう覚えていない。
けど、ユキはまだそのリアルを生きている。
あの痩せた体で。
すぐ折れそうな細くて白い手足で。
むごい現実の中を今も必死に足掻いている。
だったらオレは、なおさら届けなきゃいけない。
サンタクロースは、いい子の味方だから。
イチバン頑張って生きてるヤツにプレゼントを渡したいから。
どこにいようと、何をしてようと、どんなユキになっていても、今度こそプレゼントを届けてやりたい。
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