第5話 未来の話と来訪神
セっちゃんを見送った後、アニィさんはバイトに、ボクと
暖かな部屋で、おいしいご飯を用意して、笑顔のお母さんとお父さんが待っていました。
「ほら」
寧々くんからクリスマスプレゼントも貰いました。ちょっといいシャープペンシルです。
「モモさんと、おじさんにも」
お母さんは苦笑いを浮かべてます。
「律儀だね。ごめんね、私は用意してないよ」
「ごはん、ご馳走になってますから」
「早く、彼女さんと二人っきりでクリスマス過ごせるといいね」
すると今度は寧々君が苦笑いを浮かべます。
「こればっかりは仕方ないっスよ。ま、オレはタツミもおじさんも好きだし、一緒にクリスマスパーティー過ごせて楽しいですよ」
「うん、そっか」
ボクも家族や寧々くんとクリスマスを過ごせて楽しいです。嬉しいです。ですからちょっと寂しいです。アニィさんはバイトで遅くなるそうです。一緒に過ごせなくて寂しいです。セっちゃんもいません。そう思ってしまうボクは欲張りでしょうか。
夜も遅くなったのでパーティーはお開きとなりました。寧々くんはお母さんが車で送っていきました。お父さんは、飲みすぎてソファで寝ています。ボクは簡単に後片付けをしていました。すぐにお母さんも帰ってきて一緒に片づけます。
「タツミ。ありがとう、助かったよ。よいこにしてたから、きっとプレゼントあるよ」
と、お母さんは太鼓判を押してくれました。けれど、本当にそうでしょうか。
「本当にそうでしょうか」
「どうしたの?」
「ボクは恵まれてるなと思って」
「そっか。うん、そうだね。恵まれてるね。うん、タツミは恵まれてる。それで、それは良くないの? タツミがよいこなのと関係あるの?」
「恵まれてるから、よいこでいられるんじゃないかなって」
「なんかタツミは難しいこと考えてるなー?」
お母さんは、ボクのほっぺたを手のひらでグニグニ撫でます。
「それじゃあさ、よいこで恵まれてるタツミは、恵まれてるよいこな分だけ、誰かに良いことをして恵んであげなよ」
「ボクがですか」
「そう。きっとアニィちゃんがしたいことで見たいことってそういう事で、私やお父さんがタツミにしてあげたい事ってそういうことなんだよ。自分が良くしてもらった分、プラスちょっとだけ足して、子供だったり親しい大事な人に良くしてあげる。豊かにしてあげるの。タツミが言う通り、恵まれてたらよいこになれるんだったら、そうすることで、世の中は良い人が増えて優しい世界になっていくよね」
「難しいです」
「難しいか。始めタツミが考えてた事の方が難しかったと思うけどな。うん、でも簡単だよ。人に優しくしようね」
「わかりました」
「うん、タツミはいいこだ。じゃ、歯磨きして寝ようか」
歯を磨いてベッドに入りました。電気も消しました。リビングではお母さんが後片付けをする音がします。その後は、アニィさんと一緒にお酒でも飲むつもりかもしれませんし、そのまま寝てしまうかもしれません。
ベッドの中で目をつむりましたが、冴えて眠気がやってきません。窓の外には雪がちらついてるのが見えます。どれだけ経ったでしょうか。気が付けばリビングから音がしなくなっていました。玄関が開く音も、アニィさんとの話し声も聞こえなかったので、待たずに寝てしまったのかもしれません。と、そんなことを考えていたら、玄関の方で扉の開く音が聞こえました。アニィさんが帰ってきたのでしょうか。床が軋む音がします。徐々に近づいてきます。ボクの部屋の前で音が止まります。ドアノブが回り、扉の隙間から光が差し込みました。金髪がキラキラと輝いてます。
「アニィさん」
「ヒィっ!?」
アニィさんが小さく悲鳴を上げました。
「お、起きてたの? こ、こんな夜遅くまで起きてるなんて、悪い子」
アニィさんが、ゆっくりと静かに、部屋の中に入ってきます。なぜだか、サンタの格好をしたままでした。そして、手には包み。
「もしかして、クリスマスプレゼントですか」
「ううぅ、な、内緒で贈ろうと思ったのに。起きてるなんて」
「でもさっき、悪い子だって。プレゼントはなしですか」
「ど、どうしよっかなー?」
「ちなみに悪い子だとどうなりますか?」
「……鬼が来る」
「ボク、悪い子になります!」
「だ、ダメだよ!?」
アニィさんは、ベッドに腰掛けました。
「ど、どうした、の?」
「プレゼントも嬉しいですけど、アニィさんと一緒に過ごせる方が嬉しいです」
アニィさんの顔が真っ赤です。
「う、嬉しい事を言ってくれるけど、だ、ダメだよ。悪い子になったら、モモちゃんが悲しむし、わ、私もヤだな」
「なら止めます。アニィさん。ボク、明日から冬休みなんです」
「うん」
「アニィさんの予定はどうですか?」
「わ、私? あ、明日からはお寺の大掃除のお手伝いで、そ、その後は神社の大掃除のお手伝い、かな」
「それ、ボクも一緒に行ってもいいですか?」
「い、いいの?
「次は?」
「え、つ、次? こ、ここで大晦日から巫女さんのバイト、かな」
「アニィさんが巫女さんをするんですか」
「う、うん、するよ?」
「じゃあ、それもボクお手伝いします。お正月は他に何かしないんですか?」
「え? うん? うーん、す、少しはダラける、かも。テレビとか、つけっ放しで」
「みかん、剥いてあげますね」
「う、うん。ありがとうね」
「その後は?」
「そ、その後は……帰っちゃう」
「あ……」
そうでした。ずっとアニィさんはココにいてくれる訳じゃないのでした。もう一か月もいるので忘れていました。
「ずっとココにいてはくれませんか?」
「そ、それは……ダメ、なんだ」
「悪い子になれば来てくれますか?」
「そ、それは、私、悲しいよ」
「どうすればいてくれますか?」
アニィさんはいつもよりももっと困った顔をしています。アニィさんを困らせていることに悪いなと思いながらも止めることができませんでした。
「ボクは、アニィさんとずっと一緒にいたいです」
アニィさんは手の甲でボクの頬を撫でました。
「……誰かとの、未来は、とても難しいよね。自分の、頑張りだけじゃ、どうにもならない、もの」
アニィさんが、ボクを抱き寄せました。震える腕が、ボクの背中に回ります。微かに、ほんの微かに力の込められた、触れるか触れないかぐらいのハグでした。
「でも、タツミが私との未来をいっぱい考えてくれて、とても嬉しいよ」
そう、耳元で言うと、すぐに離れてしまいました。でも、その表情はこのひと月の中で一番の、なんの憂いのない満面の笑みでした。
アニィさん、ねぇ、笑って? dede @dede2
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