第4話 アマチュアとプロ
セっちゃんの事を、ボクはよく知りません。
「セっちゃんと言います。この子も一緒に遊んでいいですか?」
と、友達にもお願いしたら、あっさりと受け入れてくれました。見たことのない子にみんな興味津々ですが、ボクの後ろに隠れてなかなか出てきません。
「セっちゃんは何して遊びたいですか?」
「……鬼ごっこ」
すると、友達のうちの一人がニヤリと笑って言いました。
「じゃ、タツミからオニな!」
「ほら、セっちゃんも逃げて逃げて」
と、友達の女の子がセっちゃんの手を引きました。少し足をもつれさせながらも、コクリと頷いて、一緒にボクから遠ざかっていきます。
「それじゃあ、数えるのです。いーち、にー、さー……」
辺りも少しずつ暗くなっていき、一人、二人と遊んでいた友達も減っていきました。代わりに、雪が降り始めます。徐々にたくさん振ってきました。
「お? タツミ一人で遊んでるのか?」
「
声を掛けられて振り向くと、学生服にコートを羽織った寧々くんのシルエットがありました。
「もう暗いぞ。雪も降ってきたし、一緒に帰ろうぜ」
「ごめんなさい。まだダメです。それに、一人じゃないです」
と、足を止めていたら背中にドンッと衝撃が走りました。振り返ると、息を切らしたセっちゃんが嬉しそうに立っています。右手はボクの背中に当たっています。
「次。タツミくん、オニ」
「捕まっちゃいました」
「そいつ、見ない顔だな? それに……」
「た、タツミくん、お、お待たせ」
ちょうどその時、サンタの恰好をしたアニィさんもやってきました。
「ま、待ったー? あ、ね、寧々くんも」
「アニィさん、バイトはもういいんですか?」
「きゅ、休憩中。それで、セっちゃん、は?」
アニィさんは、しゃがむとセっちゃんに声を掛けました。
「楽しかった?」
セっちゃんはコクリと頷きました。
「そ、そっか。なら、最後に一回遊んだら、そろそろ帰ろうか?」
セっちゃんはもう一度コクリと頷きました。アニィさんは一度セっちゃんの頭を撫でると立ち上がります。
「た、タツミくん。そ、そういうわけだから、最後に一回、かくれんぼ……いい、かな?」
「はい」
「ね、寧々くんも、で、出来れば……」
「……わーったよ」
嫌そうにしていた寧々くんもボクが期待を込めた目で見ていたら、頷いてくれました。
「あ、ありがとう。そ、それじゃ、オニは私、ね。30数えたら、探すよ」
「た、タツミくん、みーーっけ」
「見つかっちゃいました。あとはセっちゃんだけですか?」
「おい、タツミ。こんな暗い、しかも雪の中木の上に登るのはやめろ。危ないだろ?」
いよいよ暗くなっていて手元が怪しくなってきました。それに枯れ葉や石の上にはうっすらと雪が被っています。寧々くんのいう通り確かに危ないです。少し考えなしでした。
オロオロしている寧々くんが見守る中、ボクは隠れていた木の上からスルスルと降りました。その寧々くんは最初に見つかったらしく、アニィさんに同伴していました。もしかしたら真面目に隠れなかったのかもしれません。
「寧々くん、ごめんなさい。でもアニィさん、早かったですね。隠れきる自信もあったんですけど」
「だ、だって私、鬼だから。じゃ、じゃあ二人とも、ついてきて」
アニィさんはまるでセっちゃんの居場所を知っているようでした。迷う素振りもなく真っすぐに進んで行きます。やがて、大きな木の根本までやってきました。その、太い根と根の間には窪みができています。そこにアニィさんは屈みこみました。ボクもそこを覗き込みます。
「……みーーーつけた」
アニィさんはそう宣言しました。薄っすらと雪の積もった、白いもの。
たぶん、骨、でした。
「セっちゃん、ですか?」
「そうだよ」
アニィさんは、セっちゃんのいるくぼみに手を伸ばして、でも引っ込めました。恨めしそうに自分の見ました。
「アニィさん」
ボクは手袋をとるとアニィさんの脇から体を割り込ませてアニィさんの代わりにセっちゃんに手を伸ばしました。骨に手が触れます。雪ですっかり冷え切って、風雨ですっかり脆くなっています。ザラっとして、粉っぽく、丁寧に扱わないとすぐに崩れ落ちそうでした。
「アニィさん、手を出してください」
ボクは慎重に拾い上げた骨をアニィさんの手の上に乗せました。
「タツミくん……ありがとう」
ボクがすべての骨をアニィさんの手の上に乗せると、アニィさんは目をつむりました。アニィさんの手の中が光りだします。やがて光の粒子に姿を変えると、サラサラと空気に溶けていきました。昔、自然ドキュメンタリーで見た、ダイヤモンドダストが、ちょうどこんな感じで綺麗だったなと思い出しました。
「アニィさん、セっちゃんって」
「この辺の子じゃないよ? 少し離れたところで見つけたんだ」
舞い上がる光の粒子を悲しげに目で追っています。
「今度会うときは、色々教えてね。したいことや、なりたいこと、セツの未来の話を、さ」
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