三通目
優くんが遠く離れてから、もう一年が経つんだね。あの時お腹に居た優理子も、今は一人で座ったり、物を持ったりできるようになったよ。
私のことを指さして『ママ』って言ったり、優くんの写真を見せたら『パパ』って言うんだよ。
顔はね、小さい頃の優くんそっくり。
笑った時の顔なんて、瓜二つ。
早いよね。時間が経つのって。
先日、お義父さんの葬儀を執り行いました。
最期に『優人のことを、よろしく頼む』って言い残して、安らかな顔で旅立っていったよ。
お義父さんは生前、『火葬だけで良い』だなんて言っていたから、私と実家と、ケンちゃんたちでお金を出し合った、小さな式だったけど、町の皆がお別れに来てくれたよ。
たくさんの人が泣いてた。式に来てくれた人たちは、皆、優くんのこと、早く帰ってきて欲しいって言ってた。
中学の頃、優くんが万引きしたスーパー、覚えてる? あそこの店長さんも参列してて、『出てきたら、親父さんの代わりにたっぷり説教してやるから、覚悟しとけ』って、伝言を頼まれちゃった。
優くんに指示を出してた人、捕まったよ。
強盗団のトップの人は海外に逃げてるみたいだけど、多分時間の問題だろうって。
優くんがずっと警察や検事さん、弁護士さんに何も言わなかったのは、私達を守るためだったってケンちゃんから聞いた。
私は絶対に許さない。
優くんを使って悪いことをしていたことも、
人の優しさを利用する、卑怯なやり方も、
そして、優くんが私に何の相談もしてくれなかったことも。
優くんの苦しみに、何も気付けなかった、私のことも。
優くんのしてしまったことは、簡単に許されることじゃない。それは優くん自身が一番よくわかってると思う。
怪我をした人もいるし、詐欺で消えたお金だって、なにかに使う、大切なお金だったかもしれない。
出所したら、皆に、一緒に謝りに行こう。
優理子と一緒に、ちゃんと笑って迎えられる日を待ってるから。
だからもう、自分ひとりの問題だって、抱え込んじゃ駄目だよ。
最後に、お義父さんから、ある手紙を預かっています。私は中身を見ていませんが、お義父さんが『あの時、渡せなかった手紙があるから、優人に渡してやってくれ』と言っていました。
同封しているので、かならず読んでください。
ずっと、一緒だからね。愛してます。
真理より。
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