第2話 焼きリンゴ

次の日、目が覚めると、外はひどい嵐だった。窓を叩く雨音が不規則に響き、重たい空気が部屋に満ちていた。通りで目覚めが悪いわけだ。気圧の低さが頭をぼんやりさせている。


画面に目をやると、メッセージが表示されていた。


「今日はリンゴさんが、プレゼントを持ってきましたよ!」


「プレゼント?」僕は目をこすりながら画面を見つめた。


そこには赤く艶やかなリンゴさんが笑顔で立っていた。その手には小さなバケツがあり、彼はそれをゆっくりと傾けて、僕の畑に水を撒いている。キラキラと光る水が畑を濡らし、バナナさんたちの葉が心地よさそうに揺れている。


ぼんやりとした頭でその様子を眺めていた。


突然、端末からアラーム音が響いた。


「警告: 水が多すぎます」


「お水はもういいから」と僕は小さく呟いたが、リンゴさんは手を緩める気配を見せない。ただニコニコとした表情のまま、バケツを傾け続けている。水はどんどん増え、畑全体が泥で濁り始めた。


プレゼントだなんて嘘だ!このままではバナナさんたちがやられてしまう!


僕は拳を握りしめ、画面をじっと睨みつけた。


「リンゴめ!僕の畑を腐らせようとしているな!許さないぞ!」


画面に新たな選択肢が浮かび上がる。

• リンゴにお礼をいう

• 焼きリンゴを作る


「焼きリンゴだ!」僕は迷わず「焼きリンゴ」を選んだ。


画面が一瞬暗転し、次の瞬間、リンゴさんが巨大なオーブンの中に放り込まれるアニメーションが始まる。最初はまだ笑顔を浮かべていた彼だが、オーブンがじわじわと熱を帯び始めると、その表情は苦しげに歪んでいく。皮がぷつぷつと膨らみ、果汁が溢れ出す。


リンゴさんはジタバタと手足を動かしながら抵抗するが、熱に抗えず、ついに静かに動かなくなった。彼の体はつやつやと光る焼きリンゴに変わっていく。


「焼きリンゴ完成!」


画面の中では、リンゴさんがいなくなった土地にバナナの木が新たに植えられるアニメーションが流れている。畑はみるみると鮮やかな緑を取り戻し、バナナさんたちが元気に跳ね回っている。


「ふふん、これで僕の畑はまた広がったぞ!」僕は満足げに微笑んだ。


いつの間にか嵐が止んだので、気分も爽快だった。


ふと窓の外に目をやると、不気味な光景が広がっていることに気づいた。南の空が不自然に赤く染まっている。夕焼けのような柔らかな色ではなく、どろりとした血のような赤だ。


僕は眉をひそめたが、すぐに視線を画面に戻した。そこではバナナさんたちが楽しそうに笑いながら踊っている。不気味な赤い空も、今の僕にはどうでもいいことだった。僕の畑は守られ、バナナさんたちが元気にしている。それで十分だったのだ。

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フルーツ戦争 @cosmopolit

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