第3話


『おじーちゃん、どこ行くの?』

 帽子を被らせて、祖父はジィナイースを抱え上げた。

「ヴェネトだ」

「ヴェネト?」

 小首を傾げたジィナイースに額をくっつける。

「お前は小さかったから覚えてないかもしれないな……。だがヴェネトにいたこともあるんだぞ。少しの間だが」

「?」

「じーちゃんの国だが、お前の国でもある。ジィナイース。海に浮かぶ、美しい国だ」

「みんなも一緒に行かないの?」

 船が離れていく。港で、見慣れた顔が手を振ったり敬礼をしたりしている。

「今回はな」

「そうなの……。ラファエルに絵を教えてあげる約束したの。急にお城に誰もいなくなってびっくりしないかな」

「じーちゃんがあとで、しばらく留守にすると手紙を書いといてやる」

 ジィナイースはそれを聞いて安心した。溜息をつく。

「よかった。それならラファエルもびっくりしないね」

「お前はあのちまい奴がお気に入りだな」

「ラファエル素直で可愛いんだ。ぼくのこと、すごく好きでいてくれる」

「しかしあいつはフランスの王弟の血筋だからなあ」

「ラファエルのお父さんすごく偉い人なんだよね?」

「まあ、じーちゃんよりは凄くないがな!」

 わはは! と笑っている。

「お父さんがすごい人だから、色んなことを色んな人から期待されてるみたい。でもラファエル偉いんだよ。『期待に応えたい』っていつも言ってる。頑張りたいって」

「あの泣き虫がか?」

 ジィナイースは祖父の肩に顎を預け、遠ざかる港に手を振った。

「ラファエルは頑張り屋なんだよ。いつも誰かの為に頑張ろうとしてる。泣くのはきっとすごく頑張ってるからだよ。だからラファエルが困ってたらおじーちゃん優しくしてあげてね」

「全く嫌な約束しちまったな……。だがまあ、いずれお前は俺の跡を継ぐのだから、フランスと親交があるのは悪い話じゃないかもしれんが」

「?」

「ジィナイース。彼らの顔をよく覚えておけ。彼らとはいずれ、また逢う日がやって来る。

それぞれ違う国から集った者達だが……俺たちは同じ運命の轍の中にいる。家族なんだ。

だからこの先何があってもお前は独りじゃないぞ」


 家族なんだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る