第2話

「団長~!」

「ん?」

 大好きな軍艦の上の積まれた木箱の上で昼寝をしていたイアンは足音と大きな声で起こされた。

「なんやねん……人が折角早起きして軍艦に昼寝しに来たってのに……」

「それって早起きって言いますかね?」

「軍艦の上では寝ちゃいけないっていつも言ってるのに、団長ズルイです」

「ズルくあらへん! 総司令だけは特別に軍艦の上で昼寝しても許されるんや。これは俺の船やからな! お前らも昼寝したかったら早く出世して偉くなったらええねん」

「団長! 城から文が」

「え~~~~嫌やぁ~~~! 今日はまったりしたい気分……」

 なんや、と言おうとしてふと、ラファエル・イーシャの言っていたことを思い出す。

あかん。ここはスペインやなかった。

 イアンは身を起こす。

「城の誰からや?」

「使者がいらっしゃいました。妃殿下からの重要なお手紙だそうです」

 片眉を吊り上げる。

「……なんでしょうかいきなり……」

 部下が不安そうに、手紙を見下ろしている。

(なんか嫌な予感するな~~。見たくないけど見ぃひんかっても意味ないしな)

 イアンは諦めた。

「見るわ」

 部下が頷き、すぐに差し出して来る。

 甲板を磨いていた海兵たちも、短パンサンダル姿でデッキブラシを持ったまま、集まって来た。

 王妃がフランス艦隊贔屓なのは、彼らも知っているのだ。

 手紙の封を切り、中を見て、イアンの顔色を窺ったが、彼はらしくないほど無表情のままだった。数秒後、座っていた木箱から降りて、脱ぎ捨ててあった真紅の軍服を掴み、肩にバサリと羽織るとイアン・エルスバトは歩き出す。

「呼び出しや。城に行って来る。こっち頼むで!」

 敬礼で見送られながら、イアンが去って行く。

 甲板に残った兵たちは顔を見合わせる。

「……一瞬イアンさん、怖い顔したな」

「ああ……呼び出しって何の用なんだろう?」

「いい話だったら団長あんな顔しないだろ……」

「大丈夫かなあ~~~~~~」

 心配……とスペイン艦隊の兵たちは船の縁から顔を出して、港から馬で去るイアンを見送った。


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