地極蝶

えそら琴

 

月影こぼれる夜に、開け放たれた鉄格子の扉——―。

俺はそれを連れ出した。


「私を殺すの?」

それは無機質に問いかける。

「いいや」

「じゃあ何で?」

「さあ、自分でも分からない」

実際、ぼんやりとした期待だけが俺を突き動かしていたのだ。

「ただ、君がどこかに導いてくれるような気がした」

「この国を? それとも、この世界?」

「俺を」

「へえ。君をどこへ導けばいいのかしら」

「分からない」

「そう…」


それは十六夜の月を背に俺の頬に触れ、言った。

「まだ連れてはいけない。君がそれに気づき、真に望むまでは。

必ず迎えに来るよ。だから、その日まで私を追いかけて」

今度は小指を引っ張られる。

その仕草が意味するところに、俺は「分かった」と口にしていた。

「ここから出してくれて、ありがとう。またね、死神さん」

「ああ、また」

そう言って、夜空へと飛び立っていく背を見送った。

その姿は儚く美しく、物心ついたころから

そばをふわついていたそれと、どこか重なって見えた。

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地極蝶 えそら琴 @esora_510

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