空白
夏休みが終わって新学期が始まった。
私の耳が聞こえなくなってもう何ヶ月か経ってしまった。
私の耳が聞こえなくなったあの日。
私は病院が終わり家に帰った。
そして私は力が抜けたかのようにすわった。
母が駆け寄って肩を抱いてくれた。
私は子供のようにないた。
吹けなくなった楽器。まともに受けられなくなるかもしれない授業。そして薬剤師という夢をあきらめなければならないかもしれない未来への絶望。
いろんな感情が頭の中を駆け回り私のことを混乱させた。
でも、学校に行けばクラスの人が支えてくれた。
清太くんが特に近くに居てくれた。
私は今日も彼と一緒に図書館で勉強をしている。
「どうかした?」
「これ、わかんない。」
「どれ?あ〜。これはここをこうしてこの公式を使えば…」
彼に聞けば丁寧に説明をしてくれた。
正直、他人が他人を支えることなんで長続きしないと思っていた。でも、この人とは違った。
献身的に支えてくれた。
「ねえ、今度また写真とりいこうよ。」
「うん!いきたい!」
「ここなんかどう?」
彼は私にスマホの画面を見してくれた。
そこは紅葉で有名な場所だった。
「きれいだね。」
「うん。俺らが行く頃には見ごろみたい。」
「うん!楽しみ!」
彼はニコッと笑いまた、ノートに目線を戻した。
そして、それからも関係は続いていった。
文化祭も体育祭も。
期間が経つにつれ私たちの関係はよりいいものになっていった。
そして、ある日。
清太くんから誘われていた紅葉が見ごろになったため2人で行くことになった。
私たちは清太と駅で待ち合わせをした。
「おはよう。清太くん。」
「おはよう。芹。」
私はずっと楽しみにしていたから心が躍っていた。
「芹、楽しそうだな。」
「うん!だって紅葉見れるのもそうだけど、清太くんと過ごすの楽しいから!」
「そっか。そんなこと言ってくれてうれしいよ。」
そして駅に着いて電車を降りると目の前には広大な紅葉が広がっていた。
「わあ。」
私は言葉が出なかった。
彼のおかげで場面緘黙もだいぶ良くなってきた。
そして、彼も私も夢中になってシャッターをきった。
そして時間はどんどん過ぎていった。
「またね。」
「おう!楽しかったよ!」
「ありがとう!私も楽しかった。」
そして手を振って彼と別れた。
ときは瞬く間に過ぎていった。
そして、冬がきた。
クリスマスになるけど俺は何の準備もしていなかった。でも、彼女だけは誘いたかった。
芹は俺が会えない日でも家族ともカメラで写真を納めに出かけているみたいだ。
だから、芹はどんどんカメラが上達していった。
笑顔も口数も増えていった。
きっと、なんでそんなに努力を続けられるのかと聞いてもきっと
「好きなことは無限にできるのよ」
と返ってくる。
〈ねえ、芹〉
〈なに?〉
〈クリスマス空いてる?〉
〈うん。空いてるよ?〉
〈会おう。〉
そしてクリスマスの日。
「メリークリスマス!!」
2人で声を合わせていった。
そして落ち着くと芹は口を開いた。
「ねえ、なんでそんなに私に献身的なの?」
「そうかな?俺はできることしかやってないよ。」
「それでも。」
「俺は、元々友達なんて呼べる存在なんていなかった。だから、少しでも人の役に立ちたいし、隣で困ってる人を放っておけるほど冷たい人になんかなりたくないし。」
「そっか。ありがとう!」
彼女は笑顔になった。
それからも私たちは共に過ごす時間を設け続けた。
3年生になる前に俺の親と芹の親で学校に掛け合い俺ら二人は同じクラスになるようにしてもらった。
実際、3年になれば俺らはもっと一緒に過ごすようになった。俺は大学の受験もあったため休日はそんなに会えなくなってしまった。
〈芹、最近あえなくてごめん。〉
〈ううん。大学受験どう?〉
〈もう、終わって後は合否待ちだよ。〉
〈合格したらお祝いしよ!〉
〈そうだね。〉
そして、俺は次の日曜日に会う約束をした。
「あ!いた!清太くん!」
「久しぶり。ごめんね。長らくあえなくて。」
「私、びっくりした。耳が聞こえなくなって1年経つんだね。」
「もうそんな経つのか。俺等も1周年だな。出会って。」
そして、そんな1日が終わり瞬く間に月日が過ぎていった。
俺の大学も受かり芹とお祝いしていつの間にか春が来ていた。
もうすぐ高校を卒業する。
俺らは無事高校を卒業した。
芹も就職できることになった。
俺ら2人は共同のカメラアカウントを開設し、絶大な人気を博している。
卒業式が終わり、それぞれの道への旅立ちを準備する期間にはいった。
今日、俺らはショッピングモールに来ていた。
あの服屋でバイト代を2人とも少し使い服を買った。
その帰り道。
「ねえ、芹。」
「うん?なに?」
「少し大事な話があるんだ。」
俺の真剣な表情を汲み取ったのかすこしとまどっていた。
私は真っすぐ清太くんをみた。
「大事な話ってなに?」
清太くんは少し戸惑いながら口を動かそうとしていた。
そして、何かを決めたかのようにその時は訪れた。
「もう、そばにいられないかもしれない」
私は驚きを隠せなかった。それとともに頭にモヤがかかった気がした。
「もう、そばにいられないかもしれない」
私は思考がとまった。
清太くんはそんなことを嘘でも言う人じゃないことはわかっていた。
「え、でもさ、そんなにすぐじゃないんでしょ?」
私は認めたくないというかのように彼に聞き返した。
そして、その原因を話されたあと私たちは別れた。
「母さん。」
俺は帰って一発目に親を呼んだ。
「どうしたの?清太。」
「倒れたじゃん?こないだ。」
「うん。」
「それで、もしもの事があった時にやってほしいことがあるんだ。」
「うん。」
母さんは医者から何かを聞いたかのように反応した。
「芹が前を向けるようにサポートしてほしいんだ。そのためなら俺をどうしたっていい。」
「貴方の存在を消す?ってことなの?そんなことできるわけ。」
「お母さんだから頼むんだ。お願い。」
「できる範囲でやるわ。」
あの話を聞いた何日かあと。
急に清太くんから電話がきた。
「もしもし。」
「こんにちは。清太の母です。」
「え…なんで。」
「清太がさっき亡くなりました。」
「え…」
私はその言葉を聞いた時足から力が抜け抜けていった。
そしていつの間にか電話が切れていた。
「お、お母さん…」
私はお母さんの元にいった。
「どうしたの?芹?」
私は一気に泣き出した。
「芹…聞いたの…」
私はしゃくりを上げながらお母さんにすがった。
お母さんは静かに肩を抱いてくれ、頭を撫でてくれた。心の痛みもこの苦しさも悲しみも全て清太と共有できない。
どうして、清太なの。
「私、好きって言えなかった。」
「そう。」
「本当の思い伝えようとしたら…」
言葉が出てこなかった。でも、苦しいし辛かった。
この思いは誰にも伝えられない。
誰か、助けて。
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