一度だけの時間、一度だけのとき

外では桜が散り新緑の季節になってきた。

室内には明けた窓から心地の良い風が通り、制服のリボンを揺らす。

でも、時間というものだけは止まらなかった。

「はあ、もどりたいな。」

過去には戻れないことを承知しながらも言うことは余りにもくだらなかった。

あのときは、朝起きたら突然耳が聞こえなくなるなんて思わなかった。

しかも、授業のときも話は聞かないとなので中々厳しい状態だった。

私は自分の横に置かれた小さな器具を見る。

それは、母が「授業で困らないように」と買ってくれた音声を録画し文字起こしを自動でスマホにしてくれて、要点もまとめてくれる優れものだ。

それのおかげが学力は落ちずにすんでいる。

でも、大好きな楽器もやめざるを得なくなってしまったことは少し悲しくなってしまう。

それでも、前よりは気持ちの整理がついたとは思う。

だって、隣の人がいるから。

こんな私でも世話をしてくれ、いつもそばにいてくれる人がいる。

最近は、お世話をしてくれる彼に教わりカメラを始めた。

例え片耳が聞こえなくても何かできることをということで彼と一緒にはじめた。

週末は毎回街をふらふら歩き写真を撮る生活をしていた。

最初はカメラの構図とかが分からなくて苦戦したけどなんだかんだ調べていくうちにどんどんハマっていった。

私は今の時間の過ごし方はこんな感じなんだと関心した。

もう一枚とカメラを構えたところでスマホがなった。

〈どう?どんなかんじ?〉

私はさっき撮った写真を送った。

〈凄くうまくなってるじゃん!〉

〈ううん。まだまだだよ〜。〉

〈また、今週も行こうな。〉

〈うん!楽しみ。〉

今の状態やこれからを考えても意味がないことはたしかだ。

2人でいるときだけは心が休まる気がした。


そして、週末。

いつもどうりカメラを持ち、支度をする。

そして、待ち合わせにむかう。

家からすぐのところに大きな駅があるためいつもそこで待ち合わせをしどこで撮るかをきめている。

「あっ!いた!」

「おう。」

駅につき、彼の元へはしる。

いつも一緒に居る彼がそこにはいた。

この子のお陰で私も母も安心して学校に行けるし、見送れる。

母も彼には感謝をしている。

「今日はここいこ。」

そこには大きな時計台とたくさんの花が咲いているところだった。

「わあ。すごい。ここ行こうよ。」

そして私たちは2人で電車に乗り目的地を目指した。

「ほんとにカメラ上達したよな。」

「ううん。そんなことないよ。」

「こんなに上手に写真撮れるならコンテストでも応募しらてみたら?いい賞とれるんじゃね?」

「う〜ん。どうだろう。私より上の人はいっぱいいるよ。」

正直、彼がカメラを紹介してくれなければ今の私はないかもしれない。

そして目的地に到着した。

「わー!きれい!」

「俺、ずっと来てみたいと思ってたんだよ。」

「そうなんだ。」

そして、彼は荷物をまとめ電車から降りた。

彼は写真の大学に行きたいと前言っていた。

「四宮。今日は写真撮る以外にやりたいことは?」

「う〜ん。服見に行きたい!」

少し驚いた顔をした彼は笑顔になり快諾してくれた。

「しばらく写真撮ったら行こうか!」

そして、パシャとシャッターを切る音が響く。

そして何時間くらい経ったんだろうかと思う頃に

彼が話しかけてきた。

「服屋いこう!」

「うん!!」

そして彼の後ろ姿を見ながらあとについていった。

そして電車が到着した。

そんなに人は乗ってなかったものの座れる席は見た感じなかった。だから、手すりの近くに2人で立った。

キーッ!と音が鳴ると同時に身体が傾いた。

「わっ!」

痛みが伝わることを覚悟した。

だけど痛みは伝わってこなかった。

そっと目を開けると腕を彼がつかんでくれていた。

「あぶねー。大丈夫か?」

「うん。ありがとう。」

そして車掌さんが謝罪の言葉を述べるとゆっくりと発進した。

私はしばらく彼の顔を見れなかった。

私も身体の体温が少し上がったのを感じた。

そして、電車を降りショッピングモールへいった。

「ここのお店なんかどう?」

「う〜ん。私ボーイッシュがいい。」

「それなら俺オススメの店知ってるよ!」

そして、そのお店に行くべく彼の背中について行った。

「ここ。どうかな。」

「わ〜。すご。」 

そこには沢山のボーイッシュ系統の服が並べられていた。

「これ。芹に似合うと思う。」

顔を赤くしながら持ってたのは私の好みにドンピシャのやつだった。

「え。これ。私の好きな種類。なんで?」

「なんとなく」

少し、そっけないけど嬉しかった。

「ありがとう。コレにする」

そしてレジに行こうとすると手をつかまれた。

「オレが払う。」

「えっ。ちょっ。悪いよ」

「今日は特別。」

「いいの?」

「いいよ。」

そして彼はそそくさとレジに行き袋を持って戻ってきた。

「はい。これ。」

「ありがとう。」

「ねえ、誕生日いつ?」

「私?8月だよ〜。」

「わかった。」

彼に誕生日を教えたりしながらでショッピングモール内を散策していた。

そして、2人で笑いながらショッピングモールの外に出た。

「今日はありがとう!楽しかった。」

「また明日。」

「うん!バイバイ!!」

そして彼と別れ家路に着いた。


家に帰ると机の上に1枚のチラシが置かれていた。

「母さん。コレ何?」

「ん?来月行われる大きなお祭りよ。花火も上がるみたいだから、芹ちゃんとどう?」

「うん。考えとく。ありがとう。」

母さんはなんだかんだ俺と芹の関係を考えてくれている。

そして、スマホを取り出し芹に連絡した。

〈今日はありがとう。〉

すぐに既読が着いた。

〈うん!楽しかった。〉

〈あのさ。8月に祭りがあるんだけどさ。〉

〈うん〉

〈一緒に行かない?花火も上がるみたいだから一緒に見よう?カメラも持ってさ。〉

〈うん!行きたい!誘ってくれてありがとう!楽しみにしてるね!〉

〈よかった。快諾してくれて。〉

〈またね!〉

〈うん。おやすみ〉

そしてスマホを閉じた。

あくる8月。

俺はいつもより少しおしゃれな服を着て家を出た。

俺の手には芹への誕生日プレゼントが握られていた。

そして待ち合わせ時間になると、芹が歩いてきた。

「清太くん!」

手を振りながら来る彼女は浴衣を着ていていつもより綺麗だった。

「まった?」

「ううん。全然。」

俺は可愛すぎる彼女の目のやり場に困った。

「清太くん?」

「うん?」

「何でもない。いこ!」

そして、電車にノリ隣の駅まで揺られ、そこで降りた。

「すごい。初めてきた。」

「まじ?ここのお祭り大きくて有名なんだよ。」

「そうなんだ」

「どこのお店行く?」

「あっ!ここのお店行く!」

そして花火が始まるまでの時間出店を見て回った。

そして花火が始まる時間になった。 

「ここで座ろう。」

そして彼女はカメラを構えた。

それと同時に大きな花火が音を立てて上がった。 

「おお。」

隣を見ると夢中になってシャッターを切っている。

そしてしばらくするとカメラを下ろした。

「きれいだね。」

「でしょ?」

そして芹の顔を見た。 

「ねえ、芹」

彼女がこちらに顔を向けた。 

「なに?」

「今日、誕生日だよね?」

「うん。」

「これ。」

そして、俺は彼女に誕生日プレゼントを手渡した。

「えっ。これ。」

「お誕生日おめでとう!」

「ありがとう!」

芹は涙を流していた。俺はそれを片手で拭ってあげた。

夜の花火の光に照らされた俺ら二人は俺からしたら儚かった。

彼女と過ごす時間は一瞬で大切な思い出になった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る