進み始めた時間

それから、私は清太くんの家の前を通過することはあまりできなくなった。

そんなある日、私は偶然清太くんの家の前を通りかかった。

「あっ。芹ちゃん!」

「え、清太くんのお母さん?」

「家に上がってかない?清太にお線香もあげてほしいの。」

もう心の整理をつけなくてはならなかったから素直に従った。

「お邪魔します。」

「どうぞ。」

案内された先には爽やかに笑う清太くんの姿があった。

「せ、清太くん…」

私は涙を流しながらお線香をあげた。

「お茶だすわね。」

「え、ありがとうございます。」

そして目の前にお茶を出され、清太くんのお母さんは私と向き合う形ですわった。

「まずは清太のことを本当にありがとう。」

「いえ。清太くんには凄く支えられました。」

「清太が生前に貴方に僕を忘れて過ごして欲しいって言っていたのよ。」

「そんなことできるわけ。」

「ええ、きっとあの子もそれをわかっているはずよ。でも、貴方に前を向いてほしくて行ったと思うの。少しずつでいいから、清太のことを想って清太の、事を過去にして過ごしてほしいの。」

「でも、それだと」

「きっと、清太は悲しむかもしれないと思うでしょ?でも、あの子から頼んできたのよ。」

「そうなんですか?」

「うん。だから、お願いね。」 

「わ、かりました」

そして清太くんのお母さんと別れた。

「お母さん。私、清太くんのお母さんに会った。」

「そう。知ったのね。」

「私、振り返りたい。2人の思い出を。」

「わかったわ。」

そして、お母さんはスマホを持ってきた。

「これは、前に使ってたスマホ。芹に前を向いてもらえるまでは預かってたの。」

「ありがとう」

そして、部屋に入ってスマホを開いた。

そして、アルバムアプリを開いた。

そこには沢山の幸せと笑顔が思い出として残っていた。

「あ…」

これは初めて誕生日プレゼントをもらった日のことだ。花火の音であんまり聞こえないけどうれしくてないてるのはわかる。

「あの時買ってもらった服。まだ着れるから着てるよ。」

2人で戯れたり、笑ったりする姿があった。

こんな楽しい日々を過ごしていたんだ。

私が音が聞こえずに発することが難しい間も彼は献身的に支え続けてくれた。

でも、私は本当の想いを伝えられなかった。

彼は私と同じ時間に過ごし続けたのに。

私は、感謝すらできていなかった。

もっと、もっと感謝を伝えたかった。

もっと、一緒にいたかった。

でも、もうかなわない。

だから、前を向こう。

清太くんの事は過去にできないけど前を向いて生きていく。

あの日。

耳が聞こえなくなった日と清太くんが目の前から消えた日。時間は止まった。

でも、今日またうごきだした。




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