第10話

『一週間後のいつもの時間に、ここに来て』



メラのお兄さんが彼女を無理やり連れて行く

直前に、耳元で告げられた台詞を思い返す。




少し遅くなってしまったけど、メラはまだ待ってくれているだろうか…




彼女と知り合った頃に比べて、ずっと闇が濃くなった空を見上げながら、俺は境界へと足を

速めた。





数分後、いつものように、二つの街を繋いでくれる幹の上に腰掛ける彼女の姿を視界に捉えた瞬間、俺はひどく安心して泣きそうになった。







「メラ!!」



「しっ、ルカ。あまり話せないから、よく聞いて。」


彼女の緊迫した口調に、二人の間に流れる空気も張り詰める。






「ルカ…あなたの街は、明後日の戦争で壊れてしまうの。」




光の街が、壊れる…?



予想だにしない彼女の言葉を反芻しても、理解はできない。






「戦争で、光を奪い合っているでしょ?何年も昔から。本当なら光は分け合わないといけないのに、闇の街はそのルールを破った。もうすぐ限界を迎える街は光を失って、闇の粒が降ってくるの。」




闇の粒…



触れるだけで命が奪われる、死の粒子。





「待って、闇の街ってなに?というか、何で

メラがそんなことを知ってる?」



俺の問いに一つ息を吐いたメラが、覚悟を

決めたように真剣な表情で俺に告げる。










「…この事は、私の街の研究者が明確に予測

したの」







「…あのね、ルカ。」









「ダストタウンって、あなた達は呼ぶけど、本当は私たちの街が光の街なの。」






「…っ!」






「光の街が意味するのは、光を分け合った平和な世界。私の街には争いは存在しない。みんなが助け合って、幸せに暮らしているの。」




それは、俺が夢にみる世界じゃないか…







「二つの街は、もともと一つだったの。だけど大昔に、光を奪い合う人々と、平和を望む人々が大きく決裂して、街は分断された。そして私たちの街は、二度と戦争に巻き込まれないように境界を埃で覆ったの。そのうちに街を纏う空気も変わって、他方の街に行けば体の形が保てなくなるようになってしまった。」




学校でそう習ったという彼女の言葉に、戦いばかりで教育機関すら機能しない俺の住む場所を思い浮かべた。




同時に、ダストタウンと呼んでいた場所の方がずっと素晴らしいということが理解できた。






「ルカ、この話を知らせるのは禁忌なの。私たちの街が襲われるかもしれないから。」




「だけど、」と俺の手を握ったメラは、消え入りそうな声で言った。






「ルカにだけは、生きていてほしい。だからこれを受け取って。」



渡された小さな箱を開くと、宝石のような輝きを放つ、丸いカプセルが入っていた。





「これを飲めば、こっちに来ても体は壊れなくなる。私の街で、一生のうちに一つだけ支給される万能の薬だから。」



「そんなの、俺が使ったら…」



「いいの。私はそうしてほしい。だけどルカ、

これが一つしか無いということは…。

あなたの…、家族や友人は助けられない。」



「……」



「お願い…それを受け入れて、明後日の朝、

境界に来て。私が迎えに行くから。」




泣きそうな顔でそう告げる彼女を、真っ白な頭で必死に出来事を整理しながら、返事をできないまま見つめ返した。

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