第8話

彼女と一緒になれないと分かっていても、

俺は毎日境界に通い続けた。



日を重ねるにつれ激しさを増す戦争から逃れるように、メラの透明な笑顔を求めて。





「ルカ、足が痛いの?歩き方が変に見えた」


「昨日ひどい火傷を負ったんだ。けど平気だよ。」



心配そうに眉根を寄せる彼女にそう答えると、どこか迷う素振りを見せたメラが、上着のポケットから灰色の小瓶を取り出した。



「足出して。」


そう言って中に入っていた軟膏のような薬を塗ってくれるメラ。



驚いたことに、薬が傷口に触れた途端、吸い込まれるように怪我が治った。




「すごい、この薬…こんなに早く治るなんて」


「…ルカ、これあげる。本当は渡しちゃ駄目だから、誰にもばれないように使ってね」


自身の街を振り返りながら小瓶を手渡してくれる彼女に、俺は思わず尋ねてしまった。




「メラ…君の街は、どんな場所なの?こんな

技術、俺の街にはないよ」



「……」



「…ごめん、嫌だったよな」


傷ついたような表情を浮かべる彼女を見て、俺は慌てて謝った。



「…ううん。けどルカ、その話はできない。あなたと会えなくなるから。」




「会えなくなるって何で…「メラ!!!」



俺の言葉を遮ったのは、男の人の鋭い怒声。





「兄さん…」


彼女と同じ髪の色の、背の高い男性がメラの腕を掴みあげていた。




「お前こんなところで何やって…、…っ!」



空に漂う埃が存在しない境界に入り、俺の姿を捉えたその人の表情が驚きに歪む。



「毎日どこかに行っているのは気づいていたが、闇の街の人間と会っていたなんて!」



厳しい口調で発せられた言葉に、俺は思わず耳を疑った。




「闇の街…?」




戦争に勝ちさえすれば、光を手に入れて希望に満ちた生活を送れると謳われる俺の街が、どうして…




「兄さん待って、ルカは友達なの!!お願いだから引き離さないで!!」



激しく抵抗して男性の腕から抜け出したメラが、彼を突き飛ばし、俺に抱きついてくる。





それでも呆然とするまま何もできなかった俺は、やがて強引に連れ去られたメラの小さな後ろ姿を、ただ虚しく見つめ続けた。

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