第7話
「メラ。今日さ、向かいに住む花屋のおばさんが花束をくれたんだ。」
色とりどりの花の中から選び取ったそれは、
真っ白な花びらの、メラと同じ儚い美しさを
持つ花だった。
「これあげる」
「…ありがとう」
その台詞とは裏腹に、俺には彼女の瞳が翳って見えた。
「どうした?」
「ううん…ただ、これを私の街に持っていけないのが残念だなって」
「…人は無理でも、花はいけるかも」
俺の言葉に、曖昧な微笑みを浮かべるメラ。
古くから二つの街の行き来が禁じられたのには理由がある。
他方の街に住む人がもう一方の街に足を踏み入れると、互いの街の主成分、つまり、光と埃で、体が崩れてしまう。
実際に見た人はいないけど、語り継がれた恐ろしい話に挑戦する命知らずはいなかった。
「ルカ、間違ってもこの境界を越えないでね。
あなたに二度と会えなくなるのは嫌」
薄っすらと考えていたことを見抜かれたのか、そう言ってくる彼女にすぐに頷くことができないでいると、徐に彼女が境界のギリギリに近づいた。
そっと、見えない壁に触れるように手のひらを光の街の端に伸ばしたメラに驚いた俺は、一瞬で彼女の体を引き戻した。
「大丈夫か?手は…、っ!」
黒く焼け焦げたように傷ついた彼女の手を見て、俺は絶望した。
「ルカ、分かったでしょ。生きているものは
境界を越えちゃいけない」
そう告げて、腕を伸ばしてくる彼女を目に映した俺は、悲しみに呑まれながら華奢な体を抱きしめた。
境界を越えちゃいけない。
それは、俺たち二人が一生結ばれないことを意味している。
境界という、二人の未来を夢見る俺にとっては
ひどく窮屈な空間でしか、一緒にいることは
できなかった。
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