第4話「伝説」②

「後悔?」


「ああ。彼女は、自分に見える多くの必然が、実際には実現してほしくない結果につながるのではないかと恐れていたんだ。そして、ある伝説によれば、その四つの宝物を集めれば時間を巻き戻せるらしい。だから、いつか後悔した時、その宝物を使ってすべてをやり直せるために、少女は宝物を探そうとしたのさ。」



 ウェンデルは興奮気味に聞いた。



「それで、ぼくたちは今からその宝物の一つを探しに行くの?」


「ちょっと違うな。俺たちはただ宝物が置かれていた場所を探しに行くだけだ。」


「……分かったよ。」



 がっかりするウェンデルを見て、ホーンは笑いながら、そっと歌い出した。



 緑色の喜びは海の端でさまよう


 赤い怒りは山の頂を固く守る


 茶色い孤独は碧い湖の深淵に沈む


 青い恐怖は雪の森の奥深くに潜む


 必然を覆す宝物


 それは六道が存在する証拠


 後悔の告白


 欲望の正体



 ザグフェーは驚いてホーンの方を向いた。



「それは……」


「彼女の手紙の中に書かれていた詩だ。」



 ウェンデルはしばらく考えた後に言った。



「つまり最初の四行は、四つの宝物がある場所のこと?でも六道ってなに?最後の二行はまたどういう意味なの?」



 ホーンは両手を広げて言った。



「さあな。」


「なんで何も分からないんだよ!あんたが話し始めた物語だろう!」



 ホーンは笑いながら答える。



「物語を話す人が何でも知っていなくちゃならないという決まりも無いだろう。」



 ウェンデルは口をとがらせ、ホーンが物語の語り手としての責任をきちんと果たさなかったことへの不満を表した。答えを教えてほしそうに父の方を見向いたが、ザグフェーは首を振るだけだった。



「俺にも分からないんだ。」



 ウェンデルは、全知全能だと思っていた父にも知らないことがあるのかと、非常に驚いた。



「分かったよ……それで、少女は宝物を見つけられたの?」



 ホーンは自信満々に頷いた。



「ああ。」


「じゃあ宝物は使ったの?」


「それはないと思う。」


「どうして分かるの?」



 ホーンは少々いたずらっぽい笑顔を見せた。



「そりゃ俺たちがまだここに立っているからだろう!」



 ウェンデルはホーンのロジックを理解できず眉をひそめた。そしてすぐに、その言葉は、もし少女がもう一度やり直したら、彼らの人生にさえ影響を与えるという意味だろうか?と考え始めた。だが、それはどの程度まで影響を受けるのか?そもそも、少女はそんなに偉大な人物なのか?彼女の決断が彼らに影響を与えるほどに?



 そんなことを考えているうちにウェンデルは頭が痛くなった。ホーンとザグフェーは彼の苦悩する姿を見て、思わず顔を見合わせて微笑んだ。三人はまたしばらく道を進み、ついに最初のモミ林に着いた。彼らは手分けして林の中を半日かけて捜索したが、結局特に何も見つからなかった。



 ザグフェーは空模様を見てホーンと話し合い、捜索は明日また行うことにし、三人で村に戻った。その夜、疲れた様子のホーンは早めに寝たが、ザグフェーはウェンデルを抱きながら暖炉の前に座り、今回の旅で見聞きしたことを聞かせてあげた。話が一段落ついたところで、ウェンデルはこう言った。



「でも、今回はどうしてホーンおじさんは父さんと一緒に帰って来たの?」


「彼にはやらなくちゃいけないことがあってね。」


「宝物が隠されている場所と関係があるの?」


「ああ。」



 そう言うと、ザグフェーはウェンデルをくるりと振り向かせ、彼の目をまっすぐに見つめて言った。



「ウェンデル、冬至の後すぐにホーンおじさんと出かけなくちゃならない。今回は長くなりそうなんだ。もしかしたら一年以上かかるかもしれない。」



 そう聞いて、気持ちが沈んだウェンデルだったが、「あっそ」とだけ言って静かに目をそらした。ウェンデルのがっかりした様子を見て、ザグフェーは強い罪悪感を抱いた。



「ごめんな。今度はもっとたくさん本を持って帰って来るから。」


「別にいいよ、もう慣れたし。その代わり、次に出かけるまで毎晩お話を聞かせてよ。」



 ザグフェーは承諾しかけたところで、突然何かを思い出し、きまり悪そうに言った。



「そのうちの二回はホーンおじさんに話してもらうのはどうだ?」


「だめ。下手くそだから。」



 そう聞いて、ザグフェーはきまり悪そうに、軽くため息をついた。



「よし、それで決まりだ。」



 それからの数日間、彼らは引き続き山の中に入って他のモミ林を捜索したが、どんなに探しても、何の進展も無かった。冬至が近づくにつれ、ウェンデルはホーンの焦りがどんどん膨らんでいくことを感じた。



 その日増しに暗くなっていく表情だけでも少し怖かったが、ホーンに読み聞かせをしてもらおうという父さんの提案にに同意しなくて良かったとも思った。



 冬至の前日になり、三人がまだ訪れていないモミ林はあと一ヶ所だけとなっていた。その日の朝早く、まだ夜が明ける前に彼らは出発した。ウェンデルは目をこすりながら言った。



「なんでこんなに早く出るの?」



 ザグフェーが答える。



「ジョーンに聞いたんだ。あのモミ林は東側の山奥にあって、往復だけで八時間はかかるらしい。早めに出発しないと、捜索する時間が無くなっちまうからな。」



 ウェンデルは再びあくびをし、ふいにホーンが暗い表情をしていることに気づいた。ザグフェーも機嫌が悪そうだ。そんな二人を見て、ウェンデルは今日も何も見つからなかったらどうしようと心配になった。



 出発後、彼らはすぐに標高の低いカエデとオークの林を抜け、針葉樹林帯に入った。木々がまばらなカラマツ林の中、厳冬の日差しが地面に降り注ぎ、三人は少し温もりを感じた。しかし、刺すような北風が吹くたび、また気温が急激に下がったように感じる。ホーンは身震いして言った。



「フィルバートを攻め打った時を思い出すな。あの時はいつも雨が降っていたから、今よりも寒く感じたが。」



 ザグフェーも頷く。



「確かにあの時の方が寒かった。俺でさえ耐えられそうになかった。」



 ホーンは息を吐き、白煙が空気中に漂う様子を見ながら、感慨深げに言った。



「時が過ぎるのは早いもんだな。あれからもう十数年が経つんだぜ。」



 ザグフェーはしばし沈黙し、低い声で言った。



「ホーン、やはり考えを変えるつもりはないのか?」」


「……俺の人生は、俺が選んだ戦場で過ごす。」



 ザグフェーは声のボリュームを上げて言った。



「だが今ならまだ間に合う!今お前がこの無意味な闘争を投げ捨てたとしても、俺たちには理解できる。本当にそうする必要など……」


「無意味だと?じゃあペイスの死は無意味だったと言うのか?俺たちの仲間の犠牲は無意味だったと言うのか?」



 しだいに声を荒げるホーンだったが、ザグフェーは全く怯まない。



「そういう意味じゃないって分かってるくせに。問題はお前の性格上、テラニを倒すことはできないし、ペイスのために復讐することは、生き残って息子の世話をすることよりも重要ではないということだ。ペイスも間違いなくこの点について賛同するだろう。」



 ホーンはゆっくり首を振った。



「お前は間違っている。まさにペイスが生前、俺にこうするように言ったんだ。」


「王室への反抗をか?」


「いや、彼女のために復讐することを。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る