第3話「伝説」①
「どこに行くの?」
「宝物が隠されているところだ。」
ホーンのその言葉に、ウェンデルは興味津々だ。
「宝物?どんな宝物なの?」
ホーンはふっと笑い、わざと謎めかして言った。
「あとで教えてあげる。」
ザグフェーは言った。
「正確な位置が分かるのか?」
「ペイスはこの辺のモミ林にあるとしか教えてくれなかったが、必ず見つかるはずだと言っていた。」
ザグフェーは眉間にしわを寄せた。
「ここには幾つものモミ林があるんだぞ。」
「だろうな。問題ない、まだ何日も時間はあるんだから。」
そうは言ったものの、ホーンは一抹の不安が拭い切れないようだった。三人は伐木隊が普段使う登山道に沿って、白銀に染まる森林をゆっくり登って行く。まるで積雪がすべての音を吸収しているかのように、あたり一面静まり返っており、ウェンデルにはただ三人の息遣いと、雪を踏みしめるアイゼンの音、そして梢を通り抜けるそよ風の音しか聞こえなかった。
冬はすべてを凍らせてしまうようだ。水を凍らせて氷にし、炎陽を凍らせて白い日輪にし、時間を凍らせて永遠にする。周囲のカラマツは氷と雪に覆われ、下から見上げると白い毛皮を羽織った巨人のようだ。
ウェンデルは冬に森の奥深くに入ることがほとんどなかったので、この神聖とも言える景色に、当然の如くすっかりと魅了された。ザグフェーは息子の表情をちらりと見て、微笑んだ。
「楽しいか?」
ウェンデルは力強く頷く。
「うん!」
ホーンも思わず笑いだし、慈愛に満ちた眼差しでウェンデルを見つめ、白い息を吐きながら言った。
「宝物に関する物語を聞かせてあげようか?」
ウェンデルのような年頃の子どもにとって、冒険家が様々な困難を経て宝物を見つける物語というのは、抗いがたい誘惑でしかない。彼はたちまち目を輝かせた。
「聞きたい!」
ホーンはどこから話そうかひとしきり考えた後、その魅力的なしゃがれ声で話し始めた。
「昔々、各地を旅するある少女がいた。彼女の行く先々で、いつも天地がひっくり返るような変化が起こった。
彼女が悠久な歴史を誇るとある腐敗した王国に行くと、その国は反乱を起こした民たちによって政権が覆され、彼女が他国の支配下に置かれて苦しむ古代民族のもとを訪れると、その民族はある勇者の統率によって他国人を追い払い、自由を取り戻した。
彼女が世界の果てと呼ばれる冷たい高原へ行った時には、互いに部族の人々を率いて戦い、いつも敵対していた現地の二つの蛮族の首長さえも、すぐに敵意を友情に変え、双方の和平が成立した。」
ウェンデルは解せぬ顔で首を傾げた。
「どうしてそうなるんだろう?」
「その少女にはこの世の全ての必然が見えるからだ。彼女は、世界が正しい軌道に乗って進めるように、絶妙なタイミングで後押しするのさ。」
「……やっぱりよく分からないや。」
ホーンは優しく笑った。確かに、もうすぐ九歳になる子どもにとっては抽象的すぎる言葉だ。
「例えば、さっき話した勇者は、元々、森で狩りをして生計を立てる普通の猟師だったが、少女が彼を見つけて、彼を騙して王女の花婿探しパーティーに参加するよう仕向けた。
そして、様々な難関を切り抜けるよう手助けし、王女の花婿の座に就かせたんだ。王家を後ろ盾にしたこの猟師は皆の希望となり、知略に長けていたこともあって、徐々に外敵を追い払い、王家の権力を取り戻すことに成功したのさ。」
「知略に長けていたって、どういう意味?」
「とても賢かったという意味さ。」
ウェンデルは少しの間考えて、問いかけた。
「それで言うと、もし少女がその猟師のことを騙さなければ、その後の出来事は何も起こらなかったわけでしょ?それならどうして必然と言えるの?」
「少女の行動も必然の一部だからだよ。」
「それじゃ、彼女は自分がその猟師を騙すことも見えていたってこと?」
「その可能性が高い。」
ウェンデルは小さな顔をしかめ、しばらくためらった後で言った。
「こんなの間違ってると思う。」
「何が間違ってるんだ?」
「もしも少女が本当は猟師を騙すつもりがなかったとしたら?予想の通りにならないことを恐れて、したくもないことを無理してやっているとしたら、本当に可哀想だよ。その猟師だってそうだよ。もし彼が勇者になんかなりたくなかったとしたら?」
そう聞いて、ホーンとザグフェーは啞然とした。ホーンはしばらくの間考え込み、苦笑しながら言った。
「そうかもしれないな。それでも、彼らが当時どう思っていたか、俺たちには知るすべがない。」
「分かったよ。」
「とにかく、少女はこうして多くの物事に影響を与えたが、それは彼女の旅の目的の一つに過ぎなかった。彼女のもう一つの目的は、四つの宝物を見つけることだったんだ。」
「何の宝物?」
「俺にも分からない。俺にこの物語を教えてくれた人は教えてくれなかった。」
ウェンデルは聞けば聞くほど困惑した。
「じゃあ彼女はどうしてその宝物たちを探したの?」
ウェンデルがこう質問するのを待っていたことは明白だが、ホーンはわざとらしく聞き返す。
「そうだなぁ……何でだろう?」
答えが知りたくてうずうずしているウェンデルを見て、ザグフェーは微笑みながら首を振った。
「からかうのはそのくらいにして、話してやれよ。」
ホーンは大きく笑い、ウェンデルの頭を撫でた。
「少女は後悔することを恐れたのさ。」
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