2。予報、冷たい風が吹きます。



「これだとⅭ判定だね。希望校を考え直すか、勉強の仕方を変えるか、来週までに決めてきてください」



 個別面談で言われた言葉が頭の中にループする。

 中学1年の時から通い始めたこの塾は、文字通りの進学塾。今まで塾など通ったことがないのだが、親に薦められて通うことになった。私が目指す高校は少々難易度が高く、学校と家の勉強だけでは受からないだろうという判断からだった。周囲は当然のように塾へ通っている者が多かったため、私は、「そういうものなのか」とそれなりに納得して塾に通うことにした。

「はあ…、嫌になる…」

 判定が記された書面を見つめながら、大きなため息をつく。

 私なりに頑張っているつもりだけど、一向に成績が上がらない。

 学校での授業や宿題も終わらせるが、塾からももちろん宿題が課せられる。受験を着地点としているため、少々難易度の高い課題が課せられる。1日にこなしている勉強時間は、考えたくないほど費やしているはずなのだけれど、身についている実感がない。それを体現するかのように今回のⅭ判定…。

「どうした?」

 ふいに声を掛けられる。

サカエ…」

 個人面談の時間は30分の休憩時間と並行して行われる。

 6名ほどずつ一度の行えるため、30分あったら十分らしい。平均して一人当たり5分程度。模試の結果を伝えた後、その対処法を進言する。

「栄、面談、終わったの?」

 彼はサカエ。同じ中学の2年生。1年の時、委員会活動が同じで、話をするようになった。この塾は栄が紹介してくれた。塾へ通うかもしれないという話をしたら、彼が通っているところの話をしてくれたのだ。栄は部活動との両立ができたところだから、私にも合っているのではないかと言ってくれたのだけれど。

「終わった。俺、よくできる子だから、言うことないっしょ」

 2人でひとつの長机を使う席順で、私の隣に座っているいる子がまだ帰ってきていなかった。そこに栄がどかりと座る。

「何?結果よくなかったの?」

「わあ…」

「え?なに…」

「デリカシーないわー…」

「え?え?なんだよ、元気なかったから声かけただけじゃんか」

「はあ…声のかけ方よ」

「ええ…」

「“よくなかったの?”って…どうよ。よくなかったよって言うわけないでしょう?」

「え、良かったの?じゃあいいじゃん」

「いや、……良くなかったけれども……」

「良くないのかよ」

 ぽんぽんと進む会話に心地よさを感じている反面、Ⅽ判定を実感する。

 言葉にすると余計にへこむわ。

「はあ…志望校変えなきゃいけないかな…」

「ええ?そうなのかよ」

「そういわれたんだもん。C判定だったから…」

「…お前、それって…」

「いいの、ほっといて。変えないといけないよね、でもさ…」

「別に大丈夫じゃないの?」

「だから、ほっとけって…、ん?え?ん?」

「ん?」

「え?え??」

 思ってた言葉と違うのが返ってきてた。

「え?なんで?俺たち中2じゃね?まだ1年あるじゃんか」

「……だって、Ⅽ判定…」

「半分は受かる可能性あるってことだろ?今の段階で。すごいじゃん」

「……なんてポジティブ」

「お前がネガティブなんだよ。でも、まあ…変えたきゃかえればいいんじゃね?」

 栄はそういうと席を立った。

 すぐにその席にもともと座っていた子が座る。

「まだ1年ある…」

 彼の言葉をつぶやいてみた。

 



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