第3話 4月-番外編
「コハルちゃん、流れ星見たのずるいっす! 私も見たかったっす!」
「綺麗だったよ。一回だけじゃなくて何回か流れてた」
スモモとコハルが喧嘩している。いや、じゃれあってるぐらいの表現の方が正しいかな。コハルが流れ星を見たことを報告して、そんな漫画みたいなもの見たかったとスモモが悔しがる。またコハルが感想という名の自慢を始める。後輩二人が色んな意味でアグレッシブで意外な一面を見た気分だ。おい、そこコハル、勝ち誇った顔をするな。
「流れ星なんてたまたまでしか見れないイメージっすけど、そんな何回も見られるものなんすね」
「流星群の極大期を狙えば可能だぞ。年によって見られる流星群なんかは違うけど、しぶんぎ座流星群、ペルセウス座流星群、ふたご座流星群の三つは三大流星群って言って毎年ほぼ見ることが出来る」
「じゃあ次の流星群があるときは私も見るっす!」
「はいはい、計画しておくよ」
次はなにがあったっけな。極大期がちょうど金曜に被る流星群があればいいけど。でもやっぱしっかり見るならば山の中だよな。こっちの方で見る流星群が五分から十分に一個だとしたら山の中は気がついたら流れてるイメージだ。
「せっかく漫画のネタになりそうだったのに……。最近コハルが星の名前とかは教えてくれるんすけど中々に漫画に活かしづらいすよね」
「それだったら星座にまつわる神話とか良いかもな。おおい、タッキー」
漫画を読んでいたタッキーを呼ぶ。俺はどちらかと言うと、星の名前とか明るさとか。星自体に対して強く興味を惹かれる。タッキーはそれに比べて星座の神話とかに強く興味を持っている。なんでも星座の神話は古代の人が考えた創作物だかららしい。俺も多少知らないではないけど神話はタッキーの方が詳しい。
ちなみにニックは星を観測する望遠鏡とかそっちの技術回りを勉強している姿をよく見る。最新技術の塊だから楽しくてしょうがないらしい。一口に天文部と言っても専門分野がバラけているのはある意味バランスが良いのかもしれないな。
「それじゃあコハルがこの前見たのはこと座流星群だけど、そのこと座のギリシャ神話について話そうか」
登場人物が横文字ばかりでわかりづらいから人を割り当てようか。まずは全能の神ゼウス、これは倉田だな。倉田が偉いって訳じゃなくて、ギリシャ神話の大抵はなにか出来事があったら悪いのは基本ゼウスだからね。倉田にぴったしだ。さらに悪いことに原因は倉田の浮気ってのが一番多いパターンだね。まあ今回のこと座のお話は珍しく倉田が悪くないお話だよ。これが例外だから勘違いしないように。次に今回のお話の主役、芸術の神アポロンの息子で竪琴の名手のオルフェウス。これはスモモにしようかな。最初は俺にしようかと思ったけど、妻が出てくるから波風の立たぬようにスモモにします。次にスモモの最愛の妻、エウリュディケ。これをコハルにします。ちょっと損な役回りだけど怒らないでくれよ。最後に死の国の王子ハデス。ゲームとかでも名前はちょくちょく聞くよね。これをニックとする。ここまで割り振ったならお話の始まり始まり。
スモモはギリシャで一番の竪琴の名手でした。スモモが琴を鳴らすと、ライオンも子猫同然となり、川の水ですら聞き惚れて流れるのを止めるくらいには。そして、そんなスモモには最愛の妻コハルがいます。コハルは野原で花を積んでいるときに毒蛇に噛まれて死んでしまいます。結構呆気ないですね。
スモモはすごい悲しみました。そして思いました。コハルが死んだなら冥界から取り戻せばいいのだと。早速スモモは冥界に行きましたが、ニックが駄目だと言います。頭が固いやつですね。だけどもスモモは琴の名手。美しい琴の音色を聴かせてやると、ニックの野郎は手のひらをくるくるさせます。だけどもニックは一つだけ約束事を決めます。「冥土から……地上に上がるまで……絶対に振り返っては……いけない……。いいか……、絶対だぞ……」そんなお約束のような約束事。冥界からもう少しで帰れるというところでスモモはビビります。本当にコハルは後ろについてきているだろうか。ニックに騙されたんじゃないだろうかと。耐えきれなくなったスモモはついに後ろを向いてしまいます。その瞬間、コハルは叫び声を挙げながら冥界に連れ戻されてしまうのでした。叫び声が挙げられる環境ならスモモに話しかけてあげればこんなことにはならなかったのにね。
スモモは自分の行動をすごい後悔します。どんくらい後悔してるかというと、あんなに琴の名手と名が知られているのにもう二度と琴を弾かなくなるくらい。そんなスモモを心配して女の子たちが食べ物とかを差し入れてくれます。そして女の子たちは見返りに琴を弾いてくれと言います。だけどスモモは後悔からか、絶対に琴を弾きません。それに怒り狂った女の子たちは遂にスモモに石をぶつけて殺してしまいます。遺体は川に捨てられました。そんなスモモを可哀想に思った倉田は琴の方を空に上げて星座にしました。
おしまい、おしまい。
「というお話なんだけどどうかな」
「いや、なんというか、切ないお話なんでしょうけどあまりにもツッコミどころが多過ぎて……。スモモはなんで殺されたんですか」
「だから恨み買ったんだよ。ギリシャ神話大体こんな話だよ」
案の定真面目なコハルはツッコミを抑えきれてない。俺もそう思う。琴を星座にしてめでたしめでたしとはならんやろ。そして、タッキーの言うとおり大体こんな感じでもある。浮気されて怒った女神が浮気相手殺して、それを哀れに思ったゼウスが星座にするとかそんな話が多すぎる。浮気したのゼウスだろ。断じて俺こと倉田ではないけれども。
「なんというか、イザナギとイザナミみたいな話っすね!」
「そうなんだよ。神話類型として分類されるのだけれど、別の時代、別の場所で同じような話が紡がれる。それこそが浪漫なんだよ!」
「スモモ、イザナギとイザナミってどんな話なの?」
「大体は同じっすね。妻であるイザナミが死んじゃって、イザナギが黄泉の国に取り戻しに行くんすよね。そこでイザナミに振り返るなと言われたのにイザナギは振り返ってしまって。ちょっと違うところはイザナミが醜く爛れてたからイザナギがビビって逃げて、イザナミは怒って黄泉の国に戻ってしまったってところすけど」
「スモモもよく知ってるな」
「これも漫画のネタになるかと思って覚えたっす!」
スモモは勝ち誇った笑みを浮かべる。すごいな、本当に勝ち誇っていいぞ。スモモは漫画のネタになるものはたくさん吸収してくれそうだ。コハルだって星の勉強を現在進行形でしている。一時はどうなるかと思ったこの天文部だけれど未来は明るいのかもしれない。
ただ、先輩のプライドとしてまだまだ負けてやるつもりもない。少しでも元部長に近づくためにも、俺も止まるつもりもない。願わくばかっこいい先輩になれますように、次の流星群で願おうか。
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